月の下に二つの影 1 宍戸さんと付き合い出してから二週間が経った。 つまりそれは、彼が引退してから十四日目ということなんだけど、今も宍戸さんと一緒にいられるのは、彼が引退する日に勇気を出して告白したからなのかな、と思うと、二週間前の俺を褒めてやりたくなる。 本当は、こんなにうまくいくとは思っていなかったし、むしろ宍戸さんとの関係が壊れてしまうんだと思っていた。 でも、その時の彼は、顔を真っ赤にしながらも、了承の意味を込めてコクンと頷いてくれたんだ。 あの瞬間の喜びは今も忘れられない。 宍戸さんも俺と同じ気持ちだったなんて…俺は本当に幸せ者だ。 だけど、二週間経った今も、俺らの関係に何等変化は無い。 まるで、部活の先輩と後輩の延長線上のような関係。 本当に俺達は付き合ってるって言えるのかな… デートしようと誘ったこともあったけど、テニスをするだけで終わってしまったし、買い物だってテニス関連でしか行ったことが無い。 最初は付き合えるっていう事実に満足していたから、それでも良いと思っていたけど、二週間も経つとさすがに欲が出てくるってもんだ。 もっと、恋人らしいことがしたい。 でも、もし拒絶されてしまったら、と思うと、なかなか言い出すことが出来なかった。 手を繋いでみたり、キスしたり…好きなんだから、そういう感情を持つのも当たり前だろう。 でも、宍戸さんは違うのかな… 悶々と悩みながら、俺はじっと宍戸さんの顔を見つめていた。 今は昼休み、つまり俺と宍戸さんは一緒にお昼ご飯を食べているんだ。 部活で一緒にいられなくなったことを理由にお願いしてからというもの、俺達はいつも一緒にお昼を食べている。 もしかして、それも迷惑だったんじゃ… 考え出すと止まらなくなる。 でも、自分の中で不安が募るのと同時に、欲望も膨れ上がっていた。 (キスしてみたいな…) ぼんやりと、そんなことを考えていたら、宍戸さんの口元ばかりに目がいく。 薄い唇がうっすらと開くところを、柔らかそうだな、とか少しいかがわしい目で見ていた。 前 次 Text | Top |