◇会話文 | ナノ



アンニュイ・コミュニケーション


「あー……俺…最近モテてへん気がするわ……」


放課後、練習開始前。部室には掃除をフケてきた忍足(ソファでだらだら)と、鍵当番の鳳(着替え中)がいた。


「え?」
「なんか身の回りが寂しいねん。静かやねん」
「…はぁ…」
「忍足侑士ともあろう男が放課後パラダイスに部室で暇を持て余しとんのやで?ありえへん。世間の目は節穴かっちゅーねん」

「でも、俺」

「ん?」

「昼休みに宍戸さんの教室行ったんですけど、」
「なんや惚気か」
「ち、違いますよ!なんですか、惚気って。そうじゃなくて、その時、忍足先輩が廊下で女の子に囲まれてお喋りしてるの見ましたよ?身の回りが寂しいというふうには見えなかったですけどって言おうとしたんです。なんですか、惚気って」
「ああ。あれ見たん?」
「いつもどおりじゃないですか」
「……そないドンやと好きな子逃げてまうで、鳳」

「えっ…?」
「全ッ然、いつもどおりちゃうわ」
「……ええ…?え?」
「おまえはポーッとしとるから違いが分からへんのや。女の子らめっちゃ態度変えとんで?せやから今の俺めっちゃ孤独なんやで?」

「…はぁ……」
「確かにな、女の子がちやほやしてくんのは変わらんけど。なんかこう…熱い視線が感じられんのや。本気の愛を語りかけてくる瞳があの子らにはないねん」
「本気の愛…」
「あの子らの目はこう言っとんねん。『忍足君かっこええなぁ。背高いやろ、優しいやろ、眼鏡が知的で勉強もできるやろ、そんで声からなにまでセクシーや。さらには天下のテニス部正レギュラー!…なのにめっちゃ気さくや〜。跡部君もええけど、こうやって話でけへんしなぁ。忍足君ってどことってもサイコーやわ』」
「…」
「というのが、一般女子の俺の評価や」

「…はあ。確かに跡部先輩はファンの子達に取り合ってくれないですからね」
「せや。なのにモテるとかな。いやこの際、あいつは規格外やからええとして。続きますー。恋に恋する女の子達はこの後、思考回路がおかしな方向いきます」
「いったい、どんな方向ですか?」

「こうや。…『忍足君みたいなん彼氏やったら自慢できるわ。でも、きっと長続きせぇへんやろな。あんなかっこええ人、みんなほっとかへん…そんなのいやや。ずっと幸せでおりたい。あたしのことずっと愛してくれる人がええ。いつも傍におって、たくさん名前呼んでくれて…あたしの前でだけ甘えた顔するんや…でも跡部君や忍足君みたいにええ男じゃないと嫌や。ってそんな人おらんよねぇ……』」
「いないっすね」

「せや…!」
「?」

「鳳君や!」

「えっ、お…俺ですかっ?」
「時代は鳳やねん」

「ええ?じだ、…な、どうして…」
「おまえが宍戸に忠誠誓ってる様がな、女子の自動恋愛変換機能により“先輩に忠実な後輩=一途な男”に見えんねん」
「!べ、別に俺っ。し、宍戸さんはそのっ…尊敬できる人だから…!」
「けども考えてみ…?おまえがまず滝を裏切ったことは女の子達の頭からキレイさっぱり飛んでんねん。そんで宍戸に尽くしてるとこだけ、ええとこだけ見て『跡部君より忍足君。忍足君より鳳君』なんねや」
「俺…滝先輩のことは…」
「そのこと責めてるんやないで。男の沽券について話してん」
「ええ?」

「さっきも言ったけどな。おまえはポーッとしとるから足らんのや」
「足り、ない?…なにがですか?…好かれる魅力…とかでしょうか…」
「違う。女子が恋して想い募らせて、告白いくまで足りんのや。おまえがボケッとしとるもんだから、恋がなかなかヒートアップせえへんねん。むしろ癒されてまうねん…ただ」
「ただ?」
「…最近はちゃうねん…」
「そ、そうなんですか?ていうか、そんな落ち込まないで下さいよ」
「俺はごまかせへんよ。…ポーッとしてた鳳君はもうおらんのや」
「あの、ここにいますけど…」

「鳳。おまえ2年なってから背伸びたよな」
「はい。おかげさまで185センチです」
「それから筋肉ついて、まぁ、子供臭さも取れてきて、ちょっと男らしなったなぁ」
「はい!全国大会に向けて、しっかり鍛えてますよ。宍戸さんとまたダブルスで勝利するために…!」
「うん。宍戸に鍛えられた甲斐あって、メンタルも強なってきたしな?」
「はいっ。宍戸さんといると、不思議と心が落ち着くんです、俺」
「信頼あってこそやなぁ。ええんやないの?あとは早よ先輩に足開いてもろて、童貞捨てるだけやな」
「はいっ!……えっ!?どう、…捨っ…な、ななな何言い出すんですか忍足先輩っ!」

「いやーなんかな、ムンムンしたオーラが出とんねん、おまえ」
「ム…!?い、いつもどおりですよ!というか先輩って、あ、あ、足って、」
「どこがや。俺のフェロモンかき消さんといてくれる?――いや、これやと語弊があるな。俺の色気が下回ってるみたいなるやんか。ちゃうわ。そうやないねん。俺の近くでムラムラちょろちょろすな言っとんねん。俺遊ばれへんやろ」
「……そ、それは…当てつけです……っ」

「ここ最近、おまえが部活中もギャラリーの前で悩ましげに溜め息つくからうっとおしいねん。きゃー鳳君どないしたの?悩み聞いてあげたい〜ってなってるその後ろで決まった俺の羆落としが、むっちゃ切ないことになんねや!分かる!?」
「わ、わかんないですよ、そんなの」

「……景ちゃんも君も…、ホント坊ちゃん達はよう周り見とらんわ……」

「か、仮にムラムラしてたとしても…ぶ、部活中は切り替えてますけど!」
「嘘言いなや。気付いてへんのエロビーム受けとるはずの宍戸くらいやで」
「ビ…ビームって。菊丸さんじゃないんですから、そんなの出せませんよ」
「ビームでもゾーンでも汁でもなんでもええねん。とにかく溜まったもん臭わすな言ってんねや」
「だ、出してなんか、」
「ホントかぁ?」
「……ほんと、です…」
「嘘吐くとき目ぇ逸らしたらあかんで」
「う、」

「もう、早よなんとかして??」
「!し、宍戸さんは関係ないですから!…俺の…問題です…っ」
「なんやそら。二人ですんのやから二人の問題やろ。たぶん宍戸もOKしてくれると思うけど。付き合って何か月?」
「だっ、だから、宍戸さんと付き合ってなんか、」
「なあ。ちょっと押し倒してみ?そんな抵抗せんから、多分」
「なっ、なんてこと言うんですか!!」
「驚くなや。意外に向こうも待ってるかも分からんで?」
「…っ」

「ちゅーか…そない我慢しとったら本番でがっついてイタいことなるかもな。宍戸ボロボロ泣きよったりしてな。でもおまえは止まれへん…ああ、かわいそうや。宍戸がかわいそうや。ただでさえ怖いのに」
「…そんな、やです…嫌われたく、ない…っ」
「じゃあ童貞早よ捨て。もう今日の放課後でええって」
「…」
「善は急げや。おれとおまえのために」

「……し、宍戸さんは、まだそこまで俺のこと好きじゃないかもしれじないじゃないですか…」

「え?」
「俺が…そういうこと望んでるって知って、嫌いになっちゃうかもしれないじゃないですか…っ。やっと、やっとこっち向いてくれたのに、自分の感情押し付けて、失望されたくないじゃないですか!宍戸さんに絶対、絶対嫌われたくない…。そんなのいやだ…。…っ…」
「……………それで我慢してんのか」
「ゆ、ゆっくりで、いいん、です…。か、身体はそうじゃないんですけど…けど、ゆっくりでいいから、宍戸さんが、俺でもいいって…、できたら、俺がいいって…っそう思ってくれたら、したいなって。だから、…っ…」
「……ちょお…泣くなや……」

「ないでまぜんよ!」

「……さよか」

「……っく…」

「…泣いてるやん…」
「泣いてないです!なんで忍足先輩なんかに泣かされないといけないんですか!ふざけるのもいいかげんにしてくださいよっ!」
「す…すまん。俺が悪かったわ。…おまえピュアっ子やったんやなぁ…」
「馬鹿にしてるんですか」
「いやいや、褒めてんねん。俺、そういう子むっちゃ応援したなんねや。この子が頑張って恋が実ったら、どんだけ素敵な恋愛なんやろなぁって。考えるとドキドキすんねん。せやから応援したなんねん」

「…意味分かんないです」
「分からんくてええねん。…さっきいちゃもんつけてゴメンな?俺も女の子振り向いてくれんかって、寂しかっただけやねん。ゴメン、鳳」
「……もういいです。全部、本当のことだから…」
「とりあえず宍戸に慰めてもらっとき」
「余計なお世話です」
「そないプンプンせな。今日な、宍戸、チーズバーガー食いたい言うとった。部活の後、二人でマックでも寄れば?」
「…」
「な?あ、俺の財布に割引券あるわ。ほれ、これ見せて誘い?宍戸めっちゃ喜ぶで?な?」
「……はい……」
「よし。あとは兎さんみたいな目、保健室行って冷やして来て?俺、宍戸にうまいこと言うとくから。このお詫びも今度するし」
「結構です」
「まぁまぁ。警戒せんでも悪いようにはせんから。ほなら、またあとでな」
「……宍戸さんのことお願いします」
「はいはーい」




「あかんことしてもうた…。いやぁ、あない白い子とは思わへんかったわ…」






End.


忍足をしゃべらせるのはおもしろくて好きです。





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