◇会話文 | ナノ



芥川少年の事件簿

昼食も食べ終わり、忍足、向日、芥川はC組の教室にて雑談していた。
そこへ宍戸が鳳とのささやかなランチタイムから帰ってくる。

「あ、戻ってきた」
「宍戸おっ帰りぃー」
「おう」
「なんや4限目からサボってたらしいやん。また逢引して来たんか?」
「アホか。適当にダベって昼飯食ってきた」

向日が席を占領していることに宍戸が文句を言おうとすると、芥川がキョトンとした顔で問いかけてきた。

「えー?俺も交友棟の学食で飯食ったけど宍戸達のこと見掛けなかったよ」
「……いや。今日は学食じゃねーよ」
「俺は侑士とカフェテリア行ったけど、いなかったよな?」
「見かけんかったな。部室行ったんか?」

戻ってくるなり質問攻めで宍戸は面倒臭そうに溜息をついた。
この友人達は自分と鳳のことに首を突っ込みたがるところがある。
面白半分に。

「別にどこでもいいだろが。つーか眠い。どけよ岳人。寝る」
「なんだよ素っ気ねぇなあ……鳳と俺達とで随分と扱い違うんじゃねーのー?ブーブー」
「ブーブー」
「どうせ宍戸5限目寝るだろぉ?ブーブー」
「ブーブー」
「ブーブーうっせぇ!てめぇも次の時間寝んだろがジロー!俺は今寝たいんだよ、座らせろ!」
「きゃあ、やめてシシドクン!」
「大丈夫か、がっくん!?」
「俺も!俺もーっ!」

宍戸が向日に軽く掴みかかると3人が次々と宍戸にまとわりついてくる。

「バッ、騒ぎたいんじゃねーんだよ!くっつくな、のしかかるな、飛びつくな!!」

動きを封じられた宍戸に忍足がニシシと笑う。

「ほら、目ぇ覚めたやろ〜?」
「起きろよっ」
「おまえらマジうぜえ……」
「えへへ〜。そんなこと言わないで起きてよ、宍戸」
「あーもー、眠みぃのに……」

腹に抱きついている覚醒しきった芥川にもそんなことを言われ、宍戸は諦めの気持ちが湧いてきた。
すると、宍戸が半ば背負っている向日に抱きついていた忍足が目ざとく糸クズを発見した。

「ん?岳人、セーターに糸ついとるで」
「え?」
「ほらな」
「侑士、おまえ本当に眼鏡の意味ないよな。いい加減に外せば?」
「いやいや。視力の問題やなくてな、がっくん紺色のセーターやからよお見えんねん」
「宍戸もついてるよ、腹んとこ」
「あ?どこだよ」

芥川も目の前の黒いセーターからちょんと糸を摘まんだ。

「クソクソ。濃い色のは埃とかつくと目立つよな」
「ん?ジローのつまんどるソレ、糸ちゃうで」
「え?あ、本当だー。なんだろ……毛だ。犬のっぽい」

芥川は日にかざしてそれをまじまじと観察し始めた。
友人達が離れていくとようやく宍戸は自分の席にくつろいだ。

「朝触った時にタケルのが付いたのかもしんねぇな。てか俺ホントに寝るから」

向日と忍足は勝手に話を続ける。

「あれ?宍戸ん家の犬って茶毛だろ?ジローのソレは白いぜ」
「そうなん?」
「……ん?……あー………………………あっ!!」
「どうしたジロー?」
「やっぱりイチャついてたんじゃん!」
「……なんでそうなるんだよ」
「ソレって鳳の髪の毛でしょ」
「……は?ちょっ」

宍戸が否定しようとすると忍足が「そういうことかいな」と言った。

「腹の辺りに髪の毛が付いてたっちゅーことは……もしや誰もおらん部室で彼氏に膝枕したんやなぁ?せやろ!?」
「こんな感じか?」

忍足と向日がふざけて膝枕をする。忍足が「宍戸さぁん」と言って向日の太腿に頭をくっつけてみせた。

「〜〜〜うるせえっ!!実演すんなバカダブルス!ジジジジローもいい加減ソレ捨てろよっ!」
「否定しないし〜」
「俺らがバカダブルスならおまえらはバカラブルスだな」
「さっすが相方!がっくんうまいわ〜」

3人はげらげらと笑い出す。
宍戸は赤い顔で唇を食いしばった。
どうやら図星のよう。

「でもさ、でもさぁ」
「なんやジロー?」
「もういいだろうが!俺は寝るっ」
「膝枕ならスラックスに毛が付くと思うんだよね」
「……………………………」
「……よく考えたらそうだな。ていうか毛ってさぁ。あいつは完璧にペットの認識か?」
「ほなら、宍戸に正面から抱きついて、腹に頭ぐりぐりーって押し付けたんちゃう?……あれ、あいつホンマに犬やなぁ」
「うん。それも正解だと思うんだけど、でも」
「でも?」

芥川はふわりとした雰囲気をスッと消した。

「宍戸が眠くなるのは5限目始まってからだよ。いつもはね」

机に伏せている宍戸の空気がうっすらと強張る。

「なんでなん?」
「チャイムが鳴る前に一度、鳳からメール来るからそれをドキドキしながら待ってるんだよね」
「おま……、どんだけアイツが好きなんだよ。見せつけるなっての」
「これを楽しめるようになったらラブロマンス上級者やで」
「侑士は恋愛映画とか少し控えた方がいいな」

芥川は隣の席の宍戸を一瞬ちらりと見つめた。

「それなのに眠りたいなんてどうしたのかなー……?疲れてるのかなぁ?」
「テニス……はできねぇよな。教室にラケット置いてったし」
「なんや引っかかるわ……。部室という密室に二人きり、腹部に付いた鳳のもんと見られる白い毛、そして疲れた言うて異様に眠たがる宍戸……」
「うー、分からねぇ!……つまり何が言いたいんだ?ジロー」

芥川はくわぁ、と大きく欠伸をして呟いた。

「………マスかいたあとって眠くなるよねぇ?宍戸」

皆が宍戸に注目すると、ちらりと覗く耳がみるみる真っ赤に染まった。

「――なるほど、そういうことな」
「え?どういうことだよ、侑士」

訳が分からないといった向日に、忍足は得意そうに喋り出した。

「例えばこんな感じやな……鳳は椅子に座る宍戸の足の間に屈んどったんや。さらに頭が腹んとこにくっつくような位置にまで下げてあった。……して、お口の目の前には……まぁご想像にお任せするわ。むふふ、エロい子やんなぁ〜」

にやついた忍足の表情に向日はようやくすべてを悟った。

「お、おまえら、なにやってんだよ!」

向日が宍戸の肩を掴むと、宍戸はゆでだこのように染まった顔をあげた。

「ち、違げーよ!!なんっっもしてねーし!!!」
「部室はチュウまでにしといてや」
「違げーつってんだろ!!それに視聴覚し、つ……―――あっ」

宍戸が手でぱしりと口を押さえると、相変らず眠たそうに芥川は笑んだ。

「亮ちゃん、自白しちゃったねぇ。あ、もうそろそろケータイがー……」


♪〜


「!」
「鳳からの着信だぜ!」
「さ、無実だってゆうなら見せてみなよ。『だいちゅき!』くらいなら見られても平気でしょ」
「……さすがの鳳でもそれはねぇだろ、ジロー……」
「ジローは鳳のこと少し誤解しとるんちゃうか。宍戸至上主義やけども最低限の常識はある子やで」

宍戸はそんな会話の隙にぎこちなくもサッとメール画面を開いた。
が、すぐ勢いよく閉じて両手でがっちり携帯電話を握りしめた。
顔が青い。
忍足が人差し指で眼鏡をかけ直す。

「動かぬ証拠やな」
「俺にも読めたぜ。携帯開けないってことは、」
「宍戸と違って恥じらいとかないオートリのことだから、昼休みのこと仄めかしたメールを書いてる恐れが十分にあるってことね」
「そうそう。あいつすっげーバカだからな。宍戸バカ」
「もう逃げ道はないで」
「くっそ……」

頭を抱え込んだ宍戸に忍足が無慈悲な声で告げた。

「せやなぁ……放課後、ラーメンでも奢ってくれたら忘れたってもええで?」
「チャーシューネギ増し大盛りだぜ、宍戸」
「ギョウザもね〜」
「……畜生っ………、あ……あのうるうるした目に負けちまったばっかりに……俺は………っ」
「続きはラーメン屋で聞こか」
「いや……聞かなくてもいいぜ、侑士」
「ふぁ〜……頭使ったら眠くなってきたし…………Zzz……Zzz……」




End.








>>長太郎のメール内容


今日も部活がんばりましょうね。

こっちは次の時間、現国ですよ。
先生が話長くてすげー退屈。
放課後まで宍戸さんに会えないし…昼寝しそうです。


部活の後、俺の家来ませんか?
さっきの続きしたくなっちゃった。







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