◇会話文 | ナノ



記憶喪失少年・忍足

ある秋の日の部活中。
長太郎のサーブが直撃して、忍足が記憶喪失になってしまった。

「そんでおまえ5分くらいここで寝てたんだ」
「そう、なんや…。うーん、聞いても思い出せへんわ」
「お、お、忍足ぜんばい…!ぼ、本当にっ、ずびばぜんでじだっ!!」
「も、もうええよ長太郎…。俺もぼーっとしてたんやろ。とりあえず顔拭けや?な?長太郎」
「う、…ず、ずびばぜ…っ!」
「……」

記憶喪失といっても。
忍足は自分の名前も言えたし、好きなものは?と聞けば恋愛映画について熱心に語りだしたし、長太郎が大泣きするほどのことじゃない。
ただ、やっぱり少し忘れてることもあって……なぜか俺らレギュラーメンバーをうまく認識できないらしいのが、少々困るなと。


「ほ〜っ。長太郎はサーブ200kmも出せんねや。すごいわ」
「はぁ…。けどそれを忍足先輩の頭にガコンと当ててしまったのですが…」
「ていうかよ、忍足」
「ん?」
「なんで長太郎のこと“長太郎”って呼ぶんだよ」
「あぁ…すまん。長太郎の苗字思い出せんくて。ちゅうか、おまえがコイツを四六時中長太郎長太郎って呼んでた記憶ごっつ残ってんねん」
「!?そ、そんな言ってねぇし俺っ!」
「なんだか…照れますね?」

黙ってろ長太郎!と叫んだ俺の声と、部室のドアが開いたのはほぼ同時だった。

「忍足の調子はどうだ。アーン?」
「あぁ、跡…」
「陛下ァ!!」
「……アーン……?」
「心配かけてすまへんな、陛下」
「おい宍戸。コイツCTぶち込んだ方がいいんじゃねぇか?」
「忍足先輩っ。あの人は跡部部長!呼ぶなら、キングですよ!」
「きんぐ?」
「忍足ダイジョブ〜?」
「おい侑士起きたか宍戸!」
「おぅ…まぁな…記憶喪失だけど…」
「大丈夫や。起きてんで岳人」
「えっ!?俺のことちゃんと覚えてんじゃん!?」
「ほんとだ。今のとこ岳人だけだぞ」
「ほぅ。さすがはうちのD2だ」
「侑士…!俺ガチで泣きそう!!」
「わっ。ちょ、名前呼んだだけやで〜?」
「いいなぁ〜っ!ダブルスいいなぁ〜っ!うらやまC〜!」
「はは。うれしいこっちゃね。けど、おまえさんも覚えとるで……タロウちゃん」
「ねぇ跡部こいつシメてもいーい?」


ジローのおかげで忍足は記憶を取り戻すことができた。




End.





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