きみを描く 2 「……え……これ、俺?」 「………はい」 描かれていたのはテニスをプレイしている宍戸だった。 真剣にボールを追いかけて全力で走っている一瞬を描いたデッサン。どうしても一度描いてみたくて、けれど宍戸には言えるはずもなく、こっそりと秘密で描いたもの。 伝えられない想いを、密かに形にしてみたもの。 宍戸に知られることなく、そっと気持ちを吐き出してみようと思ったのだが。 見てしまった本人はそれを凝視したまま固まってしまった。 あのデッサンから隠している想いがすべて宍戸に伝わってしまったような気がしてきて、鳳は顔が熱くなった。 「か、課題内容が『動いている人物』だったんで、その……真っ先に、テニスしてる時の宍戸さんが思い浮かんできて………宍戸さんのプレイ姿はエネルギッシュで、かっこいいし、だからですね、描いてみたい……と、思って……」 最後の方は恥ずかしさに耐えきれなくなり、俯いて小さな声になってしまった。 言えないところもあったけれど、正直に理由を言った。 宍戸が楽しそうにテニスをしている姿は、つい見惚れて目が離せなくなるくらい、かっこいい。 目線をそっと上げると宍戸と一瞬目が合った。 宍戸はサッと俯いてしまう。 鳳は泣きそうになった。こんなに引かれるくらいなら、笑い飛ばしたり、怒って怒鳴るなりしてくれた方がはるかに良かった。 せっかく仲良くさせてくれていたのに。 気味悪がられて、もう一緒に遊んでくれないかもしれない。 ダブルスも解散かもしれない。 そんなのは堪えられない。 とにかく謝って、ごまかして、取り繕おうと鳳は声を発した。 「宍戸さん、あの」 「サンキューな。長太郎」 「……え?……し、宍戸さん?」 俯いた宍戸の顔が赤い。 照れ……ている? 「―――だぁ、もう!おまえのやることは無性に恥ずかしんだっつの。びっくりさせんな!……あー腹減った。おい、飯食うぞっ」 「え、は、はい」 「………」 「あの、すいません。勝手に描いたりして……」 「謝んなくていい」 「でも、宍戸さん怒ってます」 「別に怒っちゃいねぇよ。失礼だな。ま、よく描けてんじゃねーの?」 「え、そ、そうです、か?」 「んだよ。疑ってんの?なんならそれ貰ってやってもいいぜ。モデル代だ」 「ほんとに!?」 「こっそり俺を描いた分はこれでチャラにしてやるよ」 そう言って自分の鞄にしまう宍戸はもう一度絵を眺め、柔らかい表情をこぼした。 「ありがとう、宍戸さん」 窓から差し込む光に照らされた微笑はとてもあたたかだった。 それは滅多にしてくれない顔で。 そうさせたのはまぎれもなく自分だった。 なんて、良い日なんだろう。 End. 前 次 Text | Top |