きみを描く 1 今日は朝練習のみで放課後はオフ。 スケジュールの空いた二人は一緒に帰る約束をしていた。 「んー、天気良いなぁ。やっぱテニスしてぇ」 快晴の空には白い雲がぷかりと浮かんで、心地よい風が吹いている。 「そうですね。腹ごしらえしたら」 「テニスだな」 「はい」 鳳は軽い足取りで宍戸の隣を歩いた。 部活の無い日に、こうして宍戸と一緒にいられるなんて。 過ごす内容は普段と変わり映えしないけれど。 なんて良い日だろう。 「何だ?それ」 「え?」 「おまえの鞄から覗いてるそれ。……なんか絵描いてあるな……」 ファーストフード店の窓際の席に着いた宍戸は、向いの鳳の鞄からはみ出している白い画用紙を何気なく目に留め、疑問を口にした。 その言葉を聞いた鳳は飲みかけのオレンジジュースを吐き出しそうになった。 「ぶっ――ゴホッ!……あ、いや……別に大したものじゃありませんよ?気にしないで、下さい。今日返却された、ただの課題なんです。本当に何でもないですから」 宍戸は怪訝な表情を浮かべた。 鳳はどもっているくせに早口で、動揺しているのが明らかだった。 今だって落ち着きなく視線をあちらこちらへと泳がせている。 ……怪しい。何か隠しているのか? 「じゃ、見せろよ」 「え!?……い、いえそんな!見せるほどのものじゃないですから」 「長太郎、美術得意なんだろ?」 「や、絵を描くのは好きですけど……本当に、ただの課題ですから」 「ごちゃごちゃ言ってねぇで見せろ」 「………」 宍戸が鳳を鋭く見つめた。目で逆らうのは許さないと言っている。 鳳は追い詰められて額に汗を浮かべた。 周囲の雑音がうるさいくらいに耳に響く。 あんなふうに睨まれたら、もう諦めるしかない。 「……わ、わかりました……」 鳳が了承した途端、宍戸は勝ち誇ったようににこりとして手を出した。 「よし、貸せ」 「………はい」 理不尽な先輩命令に従うしかない鳳は鞄から丸められた画用紙を取り出し、恐る恐る宍戸に差し出した。 放課後、宍戸に会えることに浮かれて、あれが鞄に入っていたことを忘れていた。 目の前で宍戸が画用紙を広げていく。 ああ、もう終わりだ。あの中身を見られたら絶対に引かれる。 前 次 Text | Top |