Love Bath Liquid 「宍戸さん、これ、着替えです。どうぞ」 「あ、悪い」 長太郎のお母さんの思いつきで、突然、鳳家にお泊りすることになった俺。 お客様だからと先に風呂に入れられそうになり、いやいや長太郎君から、いやいやお客様なんだから、とうだうだしているうちに、じゃあ二人で入りなさいと提案されて、今、脱衣所にいる。 これがもしただの友人ならば、適当にはしゃいで温まって、風呂から上がる頃にはちょっと距離が近づいたことにこっそり心躍らせる程度で済むのだろう。 けれど、俺と長太郎は、少し前から付き合っている。 告白されて、なぜか俺は嬉しくて、他の女に取られるのも嫌だと思ってしまったから。 友達だった時を含めても、長太郎の家に泊まるのは初めてだ。 合宿でも別々だったから、一緒に風呂に入るなんて、裸を見るなんて、初めてだ。 「宍戸さんのバスタオル、ここに置いておきますね」 「……あっ、おう。サンキュ」 俺がエロく考え過ぎなんだろうか。 長太郎は普通だな。試合の時はすぐ動揺が分かるのに。 別に同じパーツで出来た体じゃないか。 それに親もいる屋根の下でどうこうなるわけがない。 しかし、勝手に上がる心拍数はセーブ不能だった。 頭を悩ませているあいだに、長太郎は先に風呂場へ行ってしまい、俺は身体を洗うのも、髪を濯ぐのも一歩遅れて済ませる羽目になった。 意識しないようにすると逆に意識してしまう、という悪循環に嵌まってしまった俺は、湯船にいる長太郎の視線を、まるで罰ゲームかなにかのように耐え凌いだ。 一難去ってまた一難。 「どうぞ」 そう言って、長太郎が湯船の端に寄る。俺のためのスペースだろう方向を向いたまま。 ……するとなにか?俺は長太郎と向かい合わなくちゃいけないのか?無理ムリ絶対無理だ。 じゃあ背中を向けるかってそれじゃカップルだろ。いや、カップルだけどそうじゃないだろ。 俺は湯船の形と、長太郎のいらぬ配慮に逆らうように、横向きのままお湯に浸かった……ら。 「それじゃ狭いでしょ、宍戸さん」 「えっ、うわ!」 即行で身体を半回転させられて、絶対無理と否定した状況に置かれた。 一度そうなると拒否するのもおかしい話で、俺はやむを得ず、長太郎の足の間に収まってしまった。 「………」 「……ふぅ…」 お湯は桃色のにごり湯で、甘い花の香りがする。 広い湯船も男二人では少々狭い。 時々触れる脚に、頭がくらくらした。 俺がこんなに困っているのに、長太郎は何もしゃべらない。 自分ちの風呂だからって、一人で入ってる気になってるのか?ずるいぞ。 テニスのこととか、話したいことがあったはずなのに、なにも浮かんでこない。 だがこれ以上の沈黙にも耐えられない。 「だ、……誰の趣味?」 「…はい?」 顔を上げると、長太郎と目が合った。濡れた髪をかきあげてて、なんか、エロい。 いやいやいや、ちょっとおでこ見えてるだけのただの長太郎じゃんか。別にエロいとかない。この発想は意味不明だろ。 「どれの趣味ですか」 「え、あ。ああ、お湯。ほら、すげえ匂いだしピンクだし、なんかエロくねえか?」 ―――あ。 同時に長太郎も「あ」という顔をして、それから、がばりと引き寄せられた。 その瞬間に見えた焦れたような表情に、俺はさっきまでの長太郎はどこにいったのかと、狐につままれたような気分になった。 しかしそれも強い刺激にかき消される。 キスをしながら身体を撫でられて、またがばりと身体を引き離された。 心拍数はもう、振り切れる寸前だ。 「はぁ…はぁ…」 「…っ、もう限界。部屋、行きましょう」 「…ごめん」 「…俺も、ごめんなさい…」 そりゃそうだよ。 思春期男子のスイッチなんてあってないようなものだ。 俺も、長太郎も、例外なく。 End. 次 Text | Top |