◇中学生*高校生 | ナノ



がんばってみたけど

鳳が宍戸の家にお邪魔していたときのこと。

「長太郎」

カーテンを閉めて部屋を暗くして、お菓子をつまみながらDVD鑑賞会。
本日は宍戸が好きという映画を二人で観ることになった。

「…なんですか?」

テレビの中ではちょっとしたクライマックスが起きている。
鳳はテレビから目線を外さないまま問い返した。
主人公が気になる。

「こっち」

宍戸がベットの淵をポンポンと叩く。
鳳が振り向くと、宍戸がこちらを睨んでいる。

「どうしました?」
「………やっぱ…なんでもねぇ」
「え?」

宍戸がテレビの方に顔を背けたため、そこで会話は終わってしまう。
鳳は不思議に思いながらも再び映画に見入った。

「これ観るの初めてか」
「ん?」
「観たことねーのかよ」

言うと宍戸がゆっくりと寄り添ってくる。
気付かず映画に集中している鳳は画面を見ながら答えた。

「前に見たんですけど、途中までしか見てなくて」
「…そっか」
「はい」
「あー…のさぁ、…長太郎」
「はい?」
「手、貸せ」
「…えぇ?」

驚いて見ると、ブラウン管からの光に照らされた宍戸の顔が赤かった。

「あ、よろこんで。どうぞ」

かわいい、なんて言って騒ぎ立てると照れて拗ねてやめてしまうだろう。
鳳はそれを瞬時に悟って、今すぐ抱きしめてしまいたい衝動を抑えて慎重に振る舞った。
宍戸がこんなふうに言ってくるのは初めて。
宍戸のしたいようにさせてあげたい。
手を繋がれた鳳はドキドキしながら恋人を見守り続けた。

「肩も」

シアター気分で大音量にしてしまったテレビの音が鬱陶しく思えてきた。
恥ずかしげな恋人の声がよく聞こえない。
滅多に聞けないというのに。

「はい。どうぞ」

OKがでると、すぐに宍戸がもたれてきた。
短くて柔らかい髪がふわふわと頬をくすぐる。
鳳はふと宍戸の肩を抱きたくなった。
しかし手を繋いでしまっている。
どちらも譲れないけれど、宍戸から繋いでくれた手を離すのはどう考えても無理だ。
鳳は肩を抱くのは諦め、愛しい気持ちを体現するよう黒髪に頬を擦りつけた。
そしてつむじにキスをする。
と、宍戸の左手が静かに伸びてきて、しがみつかれた。

「し、宍戸さん…」
「あのさ、」
「なんでしょうか」
「…その、…………やらねえ?」
「……っ!」

誘ってくれるんですか…!?と叫びたいのをなんとか喉の奥にしまい込む。

「いいんですか?」

嬉しいけど、はしゃがないようにしないと。
浮かれてニヤニヤしてもだめ。
宍戸の作り出した空気をもっと感じたい。

「俺が聞いてんだけど」

そのためには冷静でいることが第一条件。

「したいです。もちろんですよ」

でれでれとした声が若干滲んでしまったが、宍戸も余裕がないのか気付かなかった。

「…じゃ、来いよ」

手を繋いだまま背後のベットに登る宍戸に、鳳は慌ててついていく。
向かい合わせに座った宍戸がぶっきらぼうに問うた。

「服、脱ぐ?」
「え?あ、はい」

とりあえず肯定すると宍戸が鳳のシャツに手を掛けた。

「脱がす。俺が」

頬を赤くしてそんなことを言われ、鳳は早くも興奮の針が振り切れそうだった。
まだ。
まだ落ち着いていたい。
もう少し、いつもと違う宍戸を楽しんでから理性を捨てたい。
そんなよこしまな考えの鳳に向かって、鳳のはだけた腹筋に触れた宍戸がぼそりと呟いた。

「わ、硬ぇ…」

なぞるような触り方と、ついこぼれた本心の言葉。
自分に触れてもっと赤くなった耳を目の当たりにして、鳳は決意を固めてからおよそ3秒であっさりと本能に敗北した。

「宍戸さんっ」

鳳は宍戸を押し倒した。

「うわ」
「宍戸さんも早く脱いで」
「わ、ちょっ…やめろ!」
「あー、もう。かわいいな」

堪らずに力いっぱい抱きしめれば、宍戸が焦ったようにもがく。
鳳はがばりと身を起こし、真下にいる宍戸の顔中にキスをする。

「お、落ち着け、長太郎!」
「宍戸さん」
「な、なんだ?」

宍戸は余りある勢いの鳳に怯えながら聞いた。

「誘ってくれてうれしいです。すげーうれしいです!」

頭のネジが一本飛んでしまったような表情の鳳に宍戸は呆けた。

「……そんなにかよ」
「そんなに。宍戸さんが思っている以上に」

鳳はもう一度キスをすると手早くDVDを消した。

「別に消さなくても」
「さっきからうるさくて」
「俺が話しかけてもあんな真剣に観てたくせに……」
「ごめんなさい。今はもう宍戸さんしか見えてないから許して」
「許しが出る前からシャツまくるかよ」
「優しくするから。ね?」

黒髪を梳くように頭をなでると、宍戸は照れ臭そうに目を伏せた。

「……許す…」




End.





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