On the bed and more... うつ伏せている鳳の耳元に軽やかなハスキーボイスが響いた。 「こういうのしたこと無い気がするな」 背後からとはいえ、ベットの上で宍戸がぎゅうぎゅう抱きついてきてる状況で何もしない俺は確かに初めてのことかもしれない、と鳳は少し納得した。 でも、同時に思う。 この状態から自分がどうするかなんて考える事じゃない。身体が勝手に動くことだ。 「重い?」 「………いえ。それは別に……」 何が楽しいのか、宍戸はにっこり笑うと鳳の髪をくしゃくしゃ撫でた。 「よーしよしよしよしよし」 「ここは動物王国ですか。ていうか宍戸さんそんなモノマネもするんですか」 「こんなんモノマネに入らねえよ。それにライオンはこんな毛色じゃないし」 「痛いー引っ張らないで下さーい」 宍戸がツンと銀色の毛を摘まむと、鳳が棒読みで不満を漏らす。 「はぁ?ちょっと摘まんだだけじゃねえか。大人しくしてろ」 背中をのそのそと這い上がってきた宍戸は、その頭頂部に顎を乗せて鳳の手元を覗いた。 「雑誌読むんだろ?」 宍戸の重みで鳳の顎がシーツに沈む。 印刷の匂い漂う紙面の上ではグリーンのコートをバックにテニスプレイヤーが豪快にラケットを振り抜いている。彼は今シーズンの活躍も著しい、鳳が応援している選手だった。 「……なんかもう、どうでも良いんですけど……」 「ふざけんな。長太郎が読みたいっつーから持って来たんだぜ」 おいコラ、と言いながら宍戸は顎で鳳の頭を小突いた。 「あとで読ませていただきますから。別に宍戸さんがいる今この時間に読まなくてもいいじゃないですか」 「ダメ。明日岳人に貸すって約束してんだ。つか本当はおまえより岳人の方が先約なんだよ」 「じゃあ向日先輩の後にもう一度貸して下さい。やっぱり今は……」 「今読んどけって。なんかさ、こうしてんの楽しいんだけど。和むな」 全然和まない! 鳳は心の中で反論した。 否、心の中でしか反論できなかった。もっといちゃつきたいようなことを言えば、きっと宍戸は怪訝な顔をして離れて行ってしまうから。 「……あ」 「ん?」 なにか気付いたような声を上げた宍戸に少し振り向く。と、首筋にカプリと犬歯が刺さった。 「な、急に何するんですかっ!」 赤面して騒ぎ出す鳳に、宍戸はなおも無邪気だった。 「ほくろ発見。長太郎知ってたか?」 「……知りません。俺はもうどうなっても知りません」 「あ?」 End. 前 次 Text | Top |