宍戸亮を守る会〈忍岳ジロ編〉 〜オカン忍足とジロ岳幼馴染コンビの場合〜 日吉、部室踏み込みまで2時間―――例の事件で『宍戸亮を守る会』は一時騒然となった。 だがあの事件以来、宍戸と目を合わせられなくなった日吉を責める者は誰一人いなかったという。 これ以上、鳳の暴挙を許しておけまい。 そう息巻く会長(跡部)から宍戸保護強化の命を受けた忍足は、常の面倒臭がりはどこへやらさっそく行動に移った。 忍足と、彼の部屋のテレビ前に集まって騒いでいた岳人とジローは、奥のベットに寝そべっている宍戸に満面の笑みを向ける。 宍戸はグラスに入ったコーラをストローで飲みながら、不気味な3人の様子についていけないでいた。 「…HR終わってすぐ拉致られたと思ったら、忍足んち?なんなんだよ」 「いきなりですまんかったな。ワンコに捕まると面倒やから急いで連れて来たんや」 忍足は窓辺に近づき、まだ日も高いというのに自室のカーテンを閉め始める。 「あんな、宍戸にいいもん見せたろと思って」 「…いいもの?なんだ?」 勿体ぶった言い方の忍足を宍戸が眉をひそめると、岳人とジローも口を挟んだ。 「どこぞの馬の骨にかわいい愛息子を好き放題されて、親バカな父ちゃんが心配してるってわけ」 「馬?父さん?」 「跡部だけじゃないよ。俺達もすっげー心配してるんだよ…?それと、馬っていうか犬だな。あのねえ、これから見るのねえ、ちょたろーより断然イイよ」 「は?ちょうたろ」 「つまりやな。相手を抑制するんじゃなくて、こっちの意識改革からってことや。原点に戻ってまず宍戸君の情操教育をきちんとせなあかん思いました」 「はぁ?意味分かんねえよ。教育ビデオなんて、俺、寝ちまうぜ」 「ええ?いやぁ、健康な男子なら寝れんと思うで〜?」 「そうそう。鳳のことちょっと忘れておけ。な?」 「だからさ、なんでそこに長太」 「まぁ聞くより見た方が早いわな。ジロちゃん、再生してくれへん?」 「ういー」 ジローによりディスクがDVDデッキに挿入された。 宍戸はもう一度忍足達を問い詰めようとしたが、ジローに「しぃっ」と唇の前で人差し指を立てられてしまった。 結局まともな説明を受けられないまま、映像は再生され始める。 それは、思春期男子の甘い妄想めくるめく、夢の世界。 『…すみません…やさしくするって言ったのに…。…大丈夫ですか?』 『謝らないで。私なら、大丈夫だから…』 『本当に?よかった。…でも、俺、びっくりしちゃいましたよ』 『え?』 『いつもは強気なくせに、ベットの上だと違うんですね』 『!』 『先輩…かわいかったです』 『も、もう…鈴木君っ!』 「先輩…エロかったです。…も、もう芥川君っ!」 「ちょっ、痛えっ!離せバカ」 ジローの一人芝居に巻き込まれ、岳人が潰されかけている。 忍足はそれをほのぼのと見つめながら薄暗い部屋でDVDの取り出しボタンを押した。 「くるやろ?」 「女テニの先輩とってさあ、ちょっとリアルじゃね?」 「いたた…、ホント忍足ってこういうことに関してだけは熱心だな」 「それ褒めてん?」 「褒めてる!チョー褒めてる!」 「そこは貶しておけって。侑士が調子乗るからさ」 3人はひとしきり笑った後、気配を潜めている部屋の奥を振り返った。 「で…どうだった?宍戸」 「えっ」 急に話を振られた宍戸はひどく動揺して素っ頓狂な声を上げた。 「えっ、て。今見たエロDVDについて感想聞いてんだけど」 「え…あ、ああ。か、感想?…おう。まぁ、その、……えっと…、…」 上擦った声。 そわそわしている目線。 「良かった?」 期待のこもったまなざしで返答を待つ3人に、宍戸は小さな声で「…い、いい…けど…」と答えた。 「マジ!?」 ジローは弾かれたようにガッツポーズする。 宍戸は忍足達の狙い通り、今の映像に反応してくれたようだ。 「やっぱ女の子だよね!」 「………その、それは…そうだけど…」 「よっしゃ、これ宍戸にレンタル決定な。家でゆっくり見たって」 「や、今見たしもういいって!……か、勘弁してくれ……」 「そんな耳赤くして勘弁って嘘言いなや。心配せんでも鳳には言わんで?」 「バッ…ち、長太郎にはこのこと絶対言うなっ!」 「言わねえよ。俺達はさ、この機会に宍戸には鳳から足洗ってもらって、女の良さを思い出して欲しいんだ。…つか、何焦ってんの?」 「べ、別に焦ってなんか、」 「ほなら次行こか」 恥ずかしがっているけど、喜んでくれたようだ。 3人はすっかりそう思いこみ、宍戸がベットに伏せて大人しくなったことに気付かない。 「…って忍足。趣味偏ってんだけど」 「げ。先輩、先生、人妻…年上のばっかじゃん」 「俺は大人の女性が好きやねん」 「けど人妻はねえよ」 画面では男女がもつれ合い、ジローと岳人はまた騒ぎ出す。 そのとき、忍足はふと服の裾を引っ張られた気がして後ろを振り返った。 「?」 「…なぁ…忍足…」 「え、おい?」 宍戸が打ちひしがれている。 「どうしたん?具合でも悪いんか?」 「……もう…ダメだ、俺……帰っていいか…」 「えっ?ダ、ダメ!?え、なんかダメやった?」 そんなに気分が悪くなるようなものを見せてはいない。 むしろ宍戸のために、宍戸の好みに合わせて厳選したものばかりだ。 「まさか趣味じゃないとか言わへんやろ?生意気でボーイッシュで、モロ宍戸好みの先輩やったやんか」 「…そうだけど…、………先輩…なんだよな…」 「え?」 「……だから。その……」 「?」 「………」 やっぱ、言いたくねえ。 宍戸は不意に瞳を潤ませると再び枕に突っ伏してしまった。 「ちょ、どうしたん?なぁ。言って。俺、宍戸のためと思って見せたけど、あかんかった?」 青くなったと思ったら赤くなり、どことなく落ち込んでいる。 さっぱりわけが分からない。 忍足が根気よく宍戸に「どうした」と話し掛け続けると、彼は伏せたまま、ようやく重い口を開いた。 「………とか……………かしいだろ……」 再び女の甲高い声が響き始めた部屋で、忍足だけがそのくぐもった声を拾うことができた。 「……え…」 「…もうダメだ、俺。興奮する方向が違えよ…」 先輩の気持ち分かっちまうとか、おかしいだろ。 End. DVD選出…忍足(年上好き) ↓ 年下敬語の野郎ばっかり 前 次 Text | Top |