宍戸亮を守る会〈日吉編〉 〜ピュア日吉の場合〜 氷帝男子テニス部正レギュラー達は、とある会を発足した。 保護の対象である本人すなわち宍戸亮と、そしてその恋人である鳳長太郎を除く7名がそのメンバーだ。 「長太郎!どこ触ってんだバカッ!」 「平気平気。こんな時間に戻ってくる奴いないっすよ。鍵も掛けました、多分」 「多分ってオイッ…」 日吉は忘れ物を取りに部室へ戻ってきたことを死ぬほど後悔した。 確かに自分は『宍戸亮を守る会』メンバーだ。彼を労わり守ることをこの胸に誓わされている(入会せぇへんと自宅で眼鏡かけたオフショット、学校で売りさばくで?と嫌な脅しをかけられたのだ) 宍戸にだって恋人との触れ合いもある程度、常識内のものは許されている。 だが日吉達メンバーはその許容範囲を超えた場合、会則に従い彼を守らなければならないのだ。 「や…やだって、」 「跡部先輩達が『宍戸を守る!』とか言い始めてから、こうやって触れるの一週間ぶりですよ…、…いい匂い」 「ばっ、犬かよテメェ。か、嗅ぐな、アホ」 「俺、宍戸さんの匂い好き。あ、汗とか気にしなくて大丈夫ですよ!」 「おまえが良くても俺がダメなの!」 「いいじゃないですかぁ」 「良くねえ!」 たかがサカりのついた犬一匹のために後悔で死ぬのも阿保らしい。すぐに冷静さを取り戻した日吉は落ち着いて状況確認を始めた。 伝統と格式ある氷帝男子テニス部の面汚しである(と日吉は思っている)バカップルがただベタベタくっついてるだけなら放置しておけば良い。 だが神聖な部室でTPOを無視した卑猥なことをしようものなら即レッドカードだ。日吉は令状片手に犯人宅に乗り込む刑事のように、ピンク色のオーラを放つ前に部屋へと突入しなければならない。 放っておいて帰ってしまってもいいのだが、そうすると明日から部室に来るたび嫌な想像をしてしまう。 「ああ…最悪だ、クソッ」 日吉はいつぞやの会員講習会で習った一連の作業を始めた。 宍戸亮が安全であるか否か確認するのだ。そして、鳳がバカなマネをしないと信用できるまで見届け(聞き届け?)なければならない。 最初の頃は手間取ったが、今ではスムーズにそれができる。 といっても静かに聞き耳を立てるだけなのだが、鳳が何をしでかすか分からないためかなり緊張する。 「いい加減にしろよ、長太郎」 「まあまあ。俺のことは気にせず部日誌を書いて下さい」 「横から抱きつかれて気にするななんてムリだろーがよ!」 「じゃあ早く書いてしまいましょう。見てますから」 「…この野郎…」 なぜだろう。 お世辞にも気が長いとは言えない宍戸と、空気の読めない鳳がすれ違い始めている。 いつも疑問に思うのだが、ここまできたらケンカに発展してもいいだろうに。 「こんなもん5分で終わらしてやるよ!」 「えへへ。頼もしいですね」 許してんじゃねえ笑ってんじゃねえ! 日吉は以前、自分と宍戸はどこか似ていると思っていた。 だが、鳳と宍戸を監視するようになってからそんなのは大間違いだったと気が付いた。 自分だったら、あんな野郎ぶん殴ってボコボコにして―――いや、むしろまず付き合わない。 「手、動かすなって」 「んー…?」 「撫でんな」 「んー」 「………わ!…」 「……ねぇ、宍戸さん…」 思わず現実から逸れた考え事をしていると、中から不穏な空気が伝わってきた。 帰りたい。 もう、今度宍戸が嫌がって叫び声をあげたら突入してやる。 日吉はこういう手のことが苦手だ。正直、男同士といえども恋人がもつれ合っているところに殴り込むのは恥ずかしくて堪らない。 だが宍戸とそして部室の無事を守らなければならない。因みに後者は日吉個人の意志だ。 今か今かと宍戸の抵抗を待ってみたが、鳳の囁き声がかすかに耳に届くだけで部室は静かになってしまった。 日吉はハラハラしながら動向を伺う。 (ああ、もう…!もっと抵抗して下さいよ、宍戸先輩) 「…。…そうじゃねえと、鳳が調子乗るからな…」 なんだか気持ち悪いことを思ってしまったと思いつつ、日吉は再び耳を研ぎ澄ませた。 しかしいくら待っても嫌がる宍戸の声は聞こえては来ない。 部室は静かになった。 …ちゃんと部日誌が書けているのかも。 「へえ。鳳のやつ、たまには紳士的な振る舞いも出来んじゃねえか」 いつもそのぐらい大人しくしていればいいのに。 悪態をつきつつも日吉はホッと胸を撫で下ろし、ドアに押し付けていた耳を離した。 帰ろう。 二人が穏やかに愛を紡いでいるだけなら日吉が出しゃばることもない。 確かに日頃うっとおしいと思ってはいるが、付き合うのは勝手だし、なによりなんだかんだ支え合っている良い仲間達なのだ。 「…帰るか」 肩の力を抜き、鞄を肩に掛けた日吉は立ち上がった。 そして、部室に背を向けた瞬間――― 「…あっ…ちょうたろ…」 『宍戸亮を守る会』メンバーは、その許容範囲を超えた場合のみ、会則に従い、彼を守らなければならない。 「…あ…」 宍戸亮が安全であるか否か確認をして、鳳がバカなマネをしないと信用できるまで見届け(聞き届け?)なければならない。 「…あ、……あっ…あ…」 もう、今度宍戸が嫌がって叫び声をあげたら突入してやる。 「あっあ、や、…あっ…」 「宍戸さん、気持ちいいですか?」 「……っばか!…ん…」 日吉が部室のドアを蹴破ったのは、それからおよそ2時間後のことだった。 End. いろいろすみませ… 前 次 Text | Top |