君は夢の中でも僕を もう気付かないふりも限界だ。 いくら無意識でも、こんなことされたら。 でも、とりあえず否定に入った。 (違う。違う、違う) 絶対にありえない。 こんなことは。 居ても立っても居られない気持ちなのは、小さく聞こえる寝息がくすぐったいから。 身体がじんわり汗をかいているのは、デカい後輩の体温がまるで小さな子供みたいに熱を持っているから。 金縛りにあったように動けないのは、せっかくスヤスヤ眠ってるおまえを起こしたくないから、で。 確かに体中の血が心臓に集まったんじゃないかってくらい、胸がバクバクうるさい。それに、どうしてか悪いことをしているように感じる。誰にも気づかれないように祈ったり、無意味だというのに息を殺してみたりして。 だから「寝顔がちょっとかわいいかも」なんて思っちまうのは今頭がこんがらがってるからなんだ。いつもなら絶対そんなこと微塵も思わない。断言できる。 つか、長太郎だぜ?ありえないだろ。 見られたら確実にネタにされるだろうこの状態。長太郎が俺の頭に頬を寄せて眠っているのだ。そして俺はというと、長太郎の肩に頭を乗せ、目がばっちり冴えていた。最悪だ。 どっちが先に意識を失ったんだろう。目蓋を開けたときにはこの体勢が完成していた。 今は他校との練習試合の帰り道。 俺と長太郎、それから他のレギュラーの奴らもバスに乗って学園を目指していた。跡部が金に物を言わせたらしく、俺達の代になってからは榊のおっさんと俺ら正レギュラーは準レギュラーやその他平部員とは別のバスだった。気心知れた連中しかいないし、行きはみんなで騒いでいたけど、帰りは疲れちまったのか全員静か(ちなみにジローは往復ともに爆睡していた) 幸か不幸か俺と長太郎は一番後ろの席だったから誰もこの状況に気付いてない。 俺がどんなに心の中で慌てふためき混乱しようと、全力疾走した後のように心臓が喚こうと。 ……仮に。 俺が先に眠っちまって、長太郎の肩に頭を預けてしまったとして。 あいつなら自分にくっついてきたのが男だろうが先輩だろうが受け入れてしまうような気がする。今俺のいる位置に岳人やジローがいたとしても、違和感はまったく無い。 長太郎は、よっぽどじゃなけりゃ拒まないと思う。いつでも相手のこと考えてる…というか、思いやりっつーの?根本的に優しい。 その優しさが今俺を困らせているとは想像しなかっただろうがな。 こいつは誰にでも優しい。それはわかってる。 でも、 「……ししどさん……」 ……そうじゃ、なくて。 長太郎がどうのこうのじゃなくて。 まだよく分からないし、うまく言えないけど。 もう気付かずにいられない。 長太郎がそばにいるとすごく安心する。 胸の奥はどきどきしてる。 でも、安心するんだ。 夢の中で呼ばれた俺も、きっとこの不思議な心地好さを感じてるはず。 End. 前 次 Text | Top |