Letter - 宛先はすぐ隣 2 ただの手紙。でも、芥川達には詩だと思われてしまった手紙。 素直ではない宍戸のこと。直接「好きだ」と書かなかった代わり、謀らずも詩のような情緒ある文面になったのかもしれない。 嫌がる宍戸を必死に拝み倒し、賄賂を贈り、最後は「普段から好きだって全然言ってくれないのに」と泣き落しをしてようやく書いてもらったものだ。 誰にも見せたくなんてなかった。 けれど、今は胸がいっぱいで。 それどころではなくて。 「ふっ、ふざけんなよ!約束が違うだろっ!」 「ごめんなさい」 「俺が…死ぬ思いで……か、書いて……!」 「俺も。俺も読んで、このまま死んでもいいと思いました」 怒鳴る宍戸に対して、鳳は熱いまなざしでそう答えた。 「そういうことじゃ…、……あぁクソ」 怒らなければ気が済まない心情だったが、鳳の潤んだ瞳を目の当たりにするともう恥ずかしさに言葉が出なくなってしまった。 それを見て、鳳も心音が早まるのを感じた。 「宍戸さん」 「黙れ」 「宍戸さん…」 「……」 宍戸は当てつけに鳳からタオルを奪うと、それを頭にかぶって再びベンチに腰を落とした。 やがてぼそりと呟く。 「おまえはわがままだ。……俺は、そういう柄じゃねえのに」 だからこそ、うれしかった。 こんなにも胸が熱くなった。 けれど鳳はそれを聞き、隣で頭を抱える宍戸に対して不謹慎にもやはり笑顔になってしまう。 きっと、こんな宍戸の表情は自分しか知らないと思うと、うれしくて耐えられなかった。 「恥ずかしくないですよ」 鳳はタオルをかぶった頭に手を伸ばし、傍から見れば汗を拭くように宍戸をやさしく撫でた。 「恥ずかしがらないで」 「…………ムリ」 「一生大切にしますから」 「……何を、」 宍戸はハッとしたがもう遅かった。 見上げれば数分前と同じ、いたずらの成功した子供のような笑顔。 やがてゆっくりと開かれた唇は、聞き慣れた音をやわらかに奏でた。 たとえば 目がさめたのにベットからはなれられない朝 なにもかもうまくやれない日部活めんどうだ、と思う放課後 そういうとき 放っておいてほしい 一人にしてほしい でも 長太郎はそばにいて いつもみたいに「宍戸さん」って 名前、呼んでほしい ただそうやって呼んでほしい End. 前 次 Text | Top |