◇中学生*高校生 | ナノ



Letter - 宛先はすぐ隣 1

好奇心旺盛な先輩二人からそそくさと逃れてきた鳳は、コートへ駆ける足を途中でぴたりと止めた。

ポケットを探れば、あの紙が入っている。
中に綴られた言葉が脳裏に蘇り、鳳はまた顔を赤くして溜息をこぼした。

少し冷静になると咽喉の渇きを感じる。
よっぽど緊張したのだろうか。
鳳はコート脇の自販機を見つけるとスポーツドリンクを買った。今頃ベンチで待っているだろう宍戸の分も、もちろん一緒に。






気付かれないように、背後からそっと忍び寄る。
熱を持って暑いのだろう、青い帽子でパタパタと煽がれている宍戸のうなじに、自販機で買いたての冷たいペットボトルを押しつけた。

「宍戸さん」
「うわぁっ!」

ぐったりしていた身体が飛び跳ねる。首を庇って振り向いた宍戸は、鳳に気付くと目を吊り上げて「冷てえ!」と叫んだ。
怒っているけれど、その頬は恥ずかしさから少し赤く染まっている。鳳は笑顔になった。

「暑いかなぁと思って」
「普通に渡せ、フツーに!」
「えへへ。水分補給しましょうよ」

宍戸は唇を尖らせつつも、相当のどが渇いていたらしく「覚えてろよ」と小さく言って鳳からペットボトルを奪った。
ごくごくと飲み干す勢いでスポーツドリンクを流し込む宍戸は清々しくて、まぶしく感じる。
テニスをしている時の生き生きした表情、そしてその時以外のむすっとした仏頂面。宍戸の周囲にいる人間が当り前に目にする光景。
鳳はドリンクを飲むことも忘れてそれを眺めていたが、やがて静かに俯いた。
手の中のボトルはすぐに汗をかいてしまい、地面に水滴を落としていく。

「はぁ、生き返った……って、おまえ飲まないのか?」
「……」
「おーい、どした?」

長太郎?
呼んでも鳳は無言で、宍戸は後輩と同じように前屈みになり、俯くその顔を覗き込んだ。

「……宍戸さん」
「なに」
「宍戸さん」
「だから、なんだ」
「……あの、ですね。…………怒らないで、聞いてほしいんですけど」
「……」
「俺、約束を破ってしまいました」
「……え?」
「帰ったら一人で読む約束だったのに、さっき、読んじゃった」


宍戸さんの、手紙…。


そう言って鳳はポケットから二つ折りされた紙を取り出した。

「そ、それっ……!」

宍戸の顔がみるみる赤く染まっていく。

「うれしかった」

さきほど芥川達に拾われてしまったルーズリーフの詩。
あれは宍戸が鳳に宛てた手紙だった。





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