明日の君を愛しましょう 宍戸さん。 俺、宍戸さんの事が好きです。あの、恋愛感情として。 男同士でおかしいかもしれないけれど、好きなんです。愛しているんです。 気付いてたでしょう?俺は宍戸さんの言うことならなんでも聞きますし、宍戸さんを一番に大事にしてます。それは全部、好きだからなんです。 だから、その……恋人に、なってください……。 『長太郎…』 夢の中の俺はどうかしていた。 長太郎の言葉すべてが、うれしくてたまらなく感じてしまう。 『…宍戸さん…』 俺は隣に座る長太郎の手を取った。 もう一度名前を呼ばれ、見つめ合えば、誘われるかのように長太郎の二の腕にそっと口づけた。 『俺、長太郎のこと……――』 * ……なんつー夢だったんだ………。 目覚めてしばらくは放心状態だった。 放課後になって部活が始まってからも、まだ頭の中があの悪夢で一杯だ。 なんで俺もあんな夢を見ちまったんだかなぁ。 今日、幸運なことに朝練習はなかった。 だから長太郎とはまだ顔を合わせていない。 どうせ、夢で見た長太郎は俺の頭が作り出した妄想の産物なんだから、現実の長太郎とはまったく関係ない。 けれど顔を見れば夢の中のあいつが重なりそうで怖かった。 それにしても、どうしてあんな夢を見てしまったのか。 長太郎が俺を好き? ありえねえ。 でも…恋愛感情まではいかないけど、あいつ、俺のこと慕ってくれてんだよな。 まぁうれしいって思ってたし、それがちょっとばかし影響したのかもしれない。 だからってあんな鳥肌立つことやるわけがねえけどな! 「ちわっす。宍戸さん」 「わっ!!」 「あ……すいません。驚かせちゃいましたか。へへへ…あれ?ししどさん?」 「――遅ぇんだよ長太郎この野郎ッ!さっさと着替えろや!!」 「あ、ははははいっ!すみませんっ!」 あの夢のこと考えてる時に登場してくんじゃねーよ、アホ! 俺は長太郎へガン飛ばして、ビクつく長太郎が着替えてるのを待ってやった。 ところが、しばらくすると長太郎はこちらをチラチラ気にし始める。 「し、宍戸さん」 「あ?」 「あの、さ、先行っててもいいです、よ…?」 「………いーから。着替えろ」 「は…はい…」 長太郎が今なに考えてんのか手に取る様に分かるぜ。 なんでししどさん機嫌悪いのかなぁ、とか、俺に八つ当たりすることないのにぃ、とかだろ? ケッ、せいぜい悩んでろ。 あんな悪夢見せられたんだこっちは。 これぐらいどうってことない仕返しだ。 ……なんか、ムカつくんだよ。 あの夢見てから、胸にわだかまりが残ってんだ。 「あれ…Tシャツどこやったっけ…」 長太郎がもたもたと着替えている。 暇にまかせて、俺はなんとなくその裸の背をじっと睨んだ。 無駄に俺より逞しい肩。余計な脂肪の無い背筋。引きしまった力強い腰は決して細くはなく。 肩甲骨がロッカーを探る度に皮膚の下を動く。 その都度隆起する二の腕は、男なのに白くなめらか。 変な夢を見たせいで、気になってしまう。 俺はまだどうかしてるのか? 「わあっ!し、し、宍戸さん!?」 気がつくと俺はその腕に触れていた。指で触って確かめていた。 夢の中で、ここにキスをしたんだ。 「な、なんかついてますか?」 「……ついてない」 「えぇ?」 長太郎は動揺したまま。 でも抵抗はしない。 俺は筋肉で硬い二の腕に額を寄せて懺悔した。 「さっき、ごめん。八つ当たり」 「……………き、気にして、ません、よ……?」 「うん」 「………し、宍戸さん、髪、くすぐったいです」 なんで拒否しないんだ、こいつ。 俺はなんとなく興味を誘われて、長太郎の手を握ってみた。 「ししし、し、宍戸さん!?」 「なんなの、おまえ」 「こっちのセリフですよー!」 顔を赤くして慌てふためく長太郎を見ていると、不意に夢の中の感覚がよみがえってくる。 長太郎に名前を呼ばれて、それに誘われるように、この二の腕に口づけた。 じっと見上げると、長太郎は赤面したまま困ったように俺をみている。 でもそれだけだった。 名前は呼ばれなかった。 「…はぁ。ま、いいや」 「えっ、何が…」 「俺、先に行ってるから。早くグランド来いよ」 動揺して揺れる瞳をもう少し見ていたい気もしたが、俺は長太郎に背を向けた。 うん。もう平気だ。 やっぱり、ちょっと寝ぼけてたんだな。 「宍戸さんっ!」 振り返ろうと思ったのに、動けなかった。 身体が長い腕に抱きしめられている。 「俺、宍戸さんの事が……好きです。あの、恋愛感情として。男同士でおかしいかもしれないけれど、好きなんです!愛しているんです!」 「…え、」 「気付いてたでしょう?俺は宍戸さんの言うことならなんでも聞きますし、宍戸さんを一番に大事にしてます。それは全部、好きだからなんです。だから、その……恋人に、なってください……」 「ちょう、たろう…」 夢の中の俺はどうかしていた。 でも、現実の俺は違った。 一ミリの違いもないデジャブに大声で笑い出してしまった。 「ふざけて言ってなんかないですからね!」 しかし現実でも、やっぱり長太郎の言葉すべてがうれしくてたまらない。 長太郎を怒らせてしまったが、俺は数十秒後に夢の続きの言葉を言うことができた。 「俺も好きだぜ、長太郎」 …だからって二の腕にキスするなんて、鳥肌立つことはしなかったけどな! End? 前 次 Text | Top |