◇中学生*高校生 | ナノ



明日の君を愛しましょう

宍戸さん。
俺、宍戸さんの事が好きです。あの、恋愛感情として。
男同士でおかしいかもしれないけれど、好きなんです。愛しているんです。
気付いてたでしょう?俺は宍戸さんの言うことならなんでも聞きますし、宍戸さんを一番に大事にしてます。それは全部、好きだからなんです。
だから、その……恋人に、なってください……。



『長太郎…』

夢の中の俺はどうかしていた。
長太郎の言葉すべてが、うれしくてたまらなく感じてしまう。

『…宍戸さん…』

俺は隣に座る長太郎の手を取った。
もう一度名前を呼ばれ、見つめ合えば、誘われるかのように長太郎の二の腕にそっと口づけた。

『俺、長太郎のこと……――』









……なんつー夢だったんだ………。

目覚めてしばらくは放心状態だった。
放課後になって部活が始まってからも、まだ頭の中があの悪夢で一杯だ。
なんで俺もあんな夢を見ちまったんだかなぁ。

今日、幸運なことに朝練習はなかった。
だから長太郎とはまだ顔を合わせていない。
どうせ、夢で見た長太郎は俺の頭が作り出した妄想の産物なんだから、現実の長太郎とはまったく関係ない。
けれど顔を見れば夢の中のあいつが重なりそうで怖かった。

それにしても、どうしてあんな夢を見てしまったのか。
長太郎が俺を好き?
ありえねえ。
でも…恋愛感情まではいかないけど、あいつ、俺のこと慕ってくれてんだよな。
まぁうれしいって思ってたし、それがちょっとばかし影響したのかもしれない。
だからってあんな鳥肌立つことやるわけがねえけどな!

「ちわっす。宍戸さん」
「わっ!!」
「あ……すいません。驚かせちゃいましたか。へへへ…あれ?ししどさん?」
「――遅ぇんだよ長太郎この野郎ッ!さっさと着替えろや!!」
「あ、ははははいっ!すみませんっ!」

あの夢のこと考えてる時に登場してくんじゃねーよ、アホ!
俺は長太郎へガン飛ばして、ビクつく長太郎が着替えてるのを待ってやった。
ところが、しばらくすると長太郎はこちらをチラチラ気にし始める。

「し、宍戸さん」
「あ?」
「あの、さ、先行っててもいいです、よ…?」
「………いーから。着替えろ」
「は…はい…」

長太郎が今なに考えてんのか手に取る様に分かるぜ。
なんでししどさん機嫌悪いのかなぁ、とか、俺に八つ当たりすることないのにぃ、とかだろ?
ケッ、せいぜい悩んでろ。
あんな悪夢見せられたんだこっちは。
これぐらいどうってことない仕返しだ。

……なんか、ムカつくんだよ。
あの夢見てから、胸にわだかまりが残ってんだ。

「あれ…Tシャツどこやったっけ…」

長太郎がもたもたと着替えている。
暇にまかせて、俺はなんとなくその裸の背をじっと睨んだ。
無駄に俺より逞しい肩。余計な脂肪の無い背筋。引きしまった力強い腰は決して細くはなく。
肩甲骨がロッカーを探る度に皮膚の下を動く。
その都度隆起する二の腕は、男なのに白くなめらか。

変な夢を見たせいで、気になってしまう。
俺はまだどうかしてるのか?

「わあっ!し、し、宍戸さん!?」

気がつくと俺はその腕に触れていた。指で触って確かめていた。

夢の中で、ここにキスをしたんだ。

「な、なんかついてますか?」
「……ついてない」
「えぇ?」

長太郎は動揺したまま。
でも抵抗はしない。
俺は筋肉で硬い二の腕に額を寄せて懺悔した。

「さっき、ごめん。八つ当たり」
「……………き、気にして、ません、よ……?」
「うん」
「………し、宍戸さん、髪、くすぐったいです」

なんで拒否しないんだ、こいつ。
俺はなんとなく興味を誘われて、長太郎の手を握ってみた。

「ししし、し、宍戸さん!?」
「なんなの、おまえ」
「こっちのセリフですよー!」

顔を赤くして慌てふためく長太郎を見ていると、不意に夢の中の感覚がよみがえってくる。
長太郎に名前を呼ばれて、それに誘われるように、この二の腕に口づけた。
じっと見上げると、長太郎は赤面したまま困ったように俺をみている。
でもそれだけだった。
名前は呼ばれなかった。

「…はぁ。ま、いいや」
「えっ、何が…」
「俺、先に行ってるから。早くグランド来いよ」

動揺して揺れる瞳をもう少し見ていたい気もしたが、俺は長太郎に背を向けた。
うん。もう平気だ。
やっぱり、ちょっと寝ぼけてたんだな。


「宍戸さんっ!」


振り返ろうと思ったのに、動けなかった。
身体が長い腕に抱きしめられている。

「俺、宍戸さんの事が……好きです。あの、恋愛感情として。男同士でおかしいかもしれないけれど、好きなんです!愛しているんです!」
「…え、」
「気付いてたでしょう?俺は宍戸さんの言うことならなんでも聞きますし、宍戸さんを一番に大事にしてます。それは全部、好きだからなんです。だから、その……恋人に、なってください……」
「ちょう、たろう…」

夢の中の俺はどうかしていた。
でも、現実の俺は違った。
一ミリの違いもないデジャブに大声で笑い出してしまった。

「ふざけて言ってなんかないですからね!」

しかし現実でも、やっぱり長太郎の言葉すべてがうれしくてたまらない。
長太郎を怒らせてしまったが、俺は数十秒後に夢の続きの言葉を言うことができた。

「俺も好きだぜ、長太郎」

…だからって二の腕にキスするなんて、鳥肌立つことはしなかったけどな!




End?





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