Your side effect 6 「気づいてたんですか?」 「ああ…」 「れも、」と言って(たぶん「でも」って言いたかったんだろう。宍戸さんは止血のため鼻にティッシュを詰めたままだった)それからしばらく無言の時が流れた。 「おれ、そうゆうとき、ちょうたろうがキラキラして見えるんらよな…」 「え?」 確かに…ギラギラ、はしてたかも…。 ずっと片想いしていた宍戸さんと奇跡的に付き合えることになって、でも最初の勇気――手を繋ぐのに失敗して。 宍戸さんを大切にするとか愛してあげるということよりも、早く近づきたいとかもっと深い関係になりたいとか、焦ってばかりだった。 「なんかもう、いつもと全然違うじゃん。パニクる」 どれも未知数な出来事や感情で、緊張や不安で身体がおかしくなってしまう。激しい動悸と呼吸困難。酸素不足が頭痛やめまいまで引き起こし、時には吐き気まで催してしまったそうだ。 訥々と話し続ける宍戸さんに、俺は大切なことを思い出していた。 「でも宍戸さん、試合の時ぜんぜん緊張してないのに」 「テニスは別だろ」 宍戸さんはその台詞だけ力強く言い、目だけひょっこり布団から出した。 「宍戸さんっぽいです。かわいい」 「ぜってー言うと思った。ムカつく」 「俺も怒られると思いました。ごめんなさい。……さっきも、乱暴なことしてごめんなさい」 宍戸さんは少し躊躇して、布団から手を伸ばしたベットサイドのティッシュを何枚か取ると何度か鼻をかんでいる。 丸めたティッシュはそのままゴミ箱へ投げ捨てられた。 「もういいよ。鼻血も止まったし」 「すみませんでした。俺、自分のことばっかり考えて、本当にひどいことを…」 「あーもう、いいって言っただろ。聞いてなかったのか?ったく、おまえは」 俯いていると、急に腕が締め付けられた。 見ると宍戸さんが俺の手首をぎゅっと握りしめている。 「俺、嫌だなんて一回も言ってねえぞ。今はまだ無理だけど、そのうち慣れると思う」 今度は宍戸さんが俯いてしまったけど、その顔は真っ赤で、掴んでくる手のひらは熱かった。 これまでの不安が一気に吹き飛んでいった。 「ゆっくり、前に進みませんか」 「おう。そうしてくれっと助かる…」 いまだ顔の赤い宍戸さんの手が手首から手のひらへそっとすべり落ちてくる。 俺も譲歩するよ、ってこと? 気づいて俺から手を握り返すと、宍戸さんはすぐに「暑い」と言いだし、ベットサイドの窓を開けた。 外はもうカーテンをして照明をつけた方がいいくらい暗くなっている。宍戸さんは部屋に流れ込んでくる夜風を火照った頬にあてるようにして瞼を閉じた。 「………あんま見んじゃねーよ」 「分かるんですか?」 「視線を感じる。お前の視線はだいたい分かる」 「へえー」 それすごいいいなぁ。 俺も宍戸さんの視線に気づけたら、いつでも目が合うのに。 前 次 Text | Top |