天使の微笑み しかし、それはすぐに穏やかな笑みとなる。 「まーたひとりでぐるぐる考え事してるでしょう?」 「…ぁ、…」 どう答えたものか。 迷っていると、長太郎は笑ってツンと眉間をつついてきた。 「正直言うとね、宍戸さんの今の態度キツいんですよ」 「……」 鈍器で頭を思いきり殴られたようだった。 俺は長太郎の顔を見ることができなくなって、静かに俯いた。 「…そ、か」 引かれるに決まってた。 男のくせに異様に照れたり、小さいことでびくびくしたりして。 けれどどうしようもない。 長太郎といると緊張せずにいられない。胸が勝手に熱くて苦しくなる。 本当に好きだから、そうなるんだ…。 目が熱い。じわじわと視界が霞みそうになるのを、瞬きして振り払う。 「ねぇ、宍戸さん」 頬に触れたてのひらに、グイッと顔を持ち上げられた。 「やっ、やめ…!」 「あれ、目潤んでません?……何かまずいこと言いました?俺が宍戸さんと二人きりになる度、いろいろ我慢しててキツいって…そんなにショックでしたか」 「…っそうに決まって……えっ?」 思考回路が停止する。 長太郎は瞬いた後、唇の片端だけにやりと上げた。 「でも、宍戸さんだって考えてるからそうやって照れちゃうんですよね?ふふ、その動揺してる顔たまんないっす」 唐突に顔が近づいてきたかと思うと、長太郎は不意打ちに唇へキスをした。 「わ!バカっ、急に…!」 「一歩前進」 長太郎はにこりと微笑む。 何がなんだかわからない。 嫌われて、ないのか? ……ていうか…長太郎の唇…すごく、やわらかかった…。 「大丈夫。そのうち考え事してる余裕ないくらいいっぱい愛して骨抜きにしてあげますよ、宍戸さん」 「!!…お、まえっ…なに恥ずかしいこと言って…!」 「そろそろ向かい合わせになりましょう。もっと俺を見て下さい。そして、もっともっと宍戸さんのことも見せて下さいね」 「…長、太郎…」 「というか、全部さらけ出してくれるまで容赦しませんけど」 「え」 「…またその顔するの?」 天使の微笑みと甘いキス。 まずいことに、恐ろしい言葉はその一瞬で忘れてしまった。 いや、恥ずかしくなるから深く考えるのをやめてしまったのかも。 それでも心臓はドキドキうるさかったけど、俺はどうしても我慢できなくて、愛しくて、長太郎に手を伸ばした。 End. 前 次 Text | Top |