黒い芽生え なんでこいつは恥ずかしがらないんだろう? 俺は、二人きりになると常に長太郎が気になって、神経ぴりぴりしてんのに。 「なんだか大人しいですね?」 後ろからいきなり顔をのぞきこまれ、心臓が跳ね上がる。 「えっ、う…いや、別にいつも通りだろっ。ち、長太郎が幸せだのなんだの言い過ぎだから、黙ってんだよ!」 「だって、二人きりの時しか言えないから。…それに、」 ――ぞくり 刺激が背筋を走り、硬直した。 回されていた長太郎の腕が、ゆっくりと身体を滑っていく。 「恥ずかしがる宍戸さん見たいから…いえ、虐めたいからわざと言ってるんですよ」 「……………」 「あ。宍戸さんの顔、真っ赤で」 「ううううるせぇ!あかっ、赤くなってねえよ!もう黙ってろバカ!!」 必死に叫ぶと、膝に顔を隠すように埋めた。 ――虐めたい…!? 何言ってんだ、長太郎!? いや…後輩に「虐めたい」とか言われて反論しない俺こそどうなんだ。 ……やばい。身体が震える。 やっぱり二人きりになった時の長太郎は、いつも通りだけど…どこかおかしい。 けど、そんな長太郎の言葉を真に受けて、妙な反応をしてしまう俺も相当おかしい。 こんな変な態度の俺に、いずれ長太郎も引くんじゃないだろうか。 自分でも気色悪いと思うし…。 「わっ」 最悪な想像に怯えていると、突然、強引に身体を起こされくるりと反転させられた。 「ちょ、長太郎、なんだよ」 動揺している姿をきっと笑われている、呆れられている――そう思いきや、真剣な顔が俺をじっと見つめていた。 前 次 Text | Top |