はぁ、と息を吐くとその息が白くなり始めた12月上旬のある土曜日。
俺と惣司郎は、ざわめく夜の街中にいた。

ビルも道も、木々さえもがイルミネーションで装飾された街はきらきらと輝き、少し早いクリスマス気分で浮かれている子どもの心を表しているような雰囲気だった。


「寒くないか?」

『だいじよb』


そう聞かれて、心配かけまいとしたが大失敗だった。
手がかじかんで動かない。


「無理するな」


そう言ってベンチに座らされ、手を握られた。

――温かい。

まるで湯たんぽに触っているみたいだ。

動かない手の替わりにありがとう、と惣司郎に笑いかける。
惣司郎も何も言わずに笑い返してくれた。

数分手を握っていたが一向に温まる気配は無く、ただ"温かいものが手にある"という状態が続いていた。

いや……
惣司郎の手までもが冷たくなってきていた。


「温まらねぇな」

『ありがとう惣司郎。
もう大丈夫だ』

「馬鹿言うな、まだ冷たい」

『そう言う惣司郎も、冷たい』

「俺?」


俺は温かいよ、と言って自らの首に手を押し当てる。
その瞬間に惣司郎の身体が硬直した。


「……!」

『ど、どうした?』

「……つ、つめた……」


眉をハの字に下げてぶるぶる震えだした惣司郎にくすっと笑いが零れる。


『だろう?』

「うわ、なんか寒くなってきた……」

『マフラーを持ってきた』

「それ和義のだろ。
いいよ、風邪引く」

『こうしよう』


巻いていたマフラーを一度解き、端を惣司郎の肩にかけた。
もちろんもう一方の端は俺の肩の上だ。


『すまない、そこからは自分で巻いてくれないか』


自分の方の端を巻き、ぽかんとしている惣司郎に言う。
仕方ないだろう、ここからだと少し届かないんだ、と続ける。


「……ありがとな」

『問題ない』





























あれから何分過ぎただろうか。

1つのマフラーを2人で巻き、寄り添っているお陰で寒さも和らいできた。


「寒いか?」

『いや、温かい』


そうか、と笑いかけた惣司郎と俺の目の前に、2羽の鳥が飛んできた。


「お、仲良いなぁ」


2羽は互いに追いかけっこをしているように見えた。
その小さな脳で互いを覚えていられるのは少しの間だけだと言うのに、それはそれは、楽しそうで。


「和義」

『?』
「鳥には人間の持つような感情が無い」

『知ってる』

「じゃあ何であんなに楽しそうに見えるんだろうな」

『……』


……?
話が読めない。

どういう意味だろうかと考えていると、惣司郎はくすっとわらって続けた。


「人間に"楽しい"っていう感情があるからだ」

『……』

「"楽しそうに見える"のは人間に感情があって、"楽しいとはどういうものか"を知ってるから、だろ?

鳥にはそういうのが無い。
鳥は楽しさなんて求めない。生きるのに精一杯な生き物だからな。

ああやって楽しそうに見えるのは、あの2羽が夫婦のように見えるのは、人間が"恋"っていう感情を知ってるから」


――何を言っているんだか。

寒さで思考回路がおかしくなったかと惣司郎の顔を見ればそれはそれは真剣そのもので。


「でも、鳥みたいに生きるのに精一杯なら、恋に苦しむ心が無いわけだろ?
……どれだけ楽なんだろう。

……まぁ、面倒臭いけど、"心"は人間の持つ特権だし、それがあるから幸せだと思うんだろうな、人間は」


前半理屈だが間違いないな。

そう俺が言うと惣司郎は俺の額にちゅ、と短いキスをした。惣司郎はきょとんとする俺を見て「かっかっか」と豪快に笑った。

それを見た俺も自然と笑顔が溢れ、つられて笑う。
あまりにも惹かれる、笑いだから。


『人間で良かった』

「だろ?」

『……幸せだ』

「……俺も」


















 

















「キス、続きしようぜ」

『だめ』

「……ちぇ。
…恥じらいとかは無い鳥で良かったかな…」



end.
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前サイトから持ってきました。

かちわ さまへ2000hitキリリク作品
安スイで甘々でした。