イライライライラ。
ギリギリミシミシ。

歯が折れるんじゃないかというぐらい歯軋りをしている俺だが、その原因を作っている恋人ボッスンは相も変わらずヒメコとキャプテン、振蔵とべちゃくちゃべちゃくちゃと喋っている。

――俺のボッスンに軽々しい口をきくな!

そう叫びたいのをぐっと我慢してまた歯軋り。
あ、今歯欠けた。


「ほな次描いてやボッスン!
んーとな、んー…
髪はモッジャモジャや。丸いグラサンに…長めのコート着てんねん」

「足には下駄よ」

「いつも馬鹿笑いしてる宇宙の商人でござる」

「…坂本辰馬じゃね?」

「ごっつ似とる!」

「すごい!さすがだわ!」

「人物が分かってもそれを原作の通りに描ける人は中々いないでござるよ!」


――……こいつら……!!

ボッスンを何だと思ってるんだ、お前たちの暇つぶし道具のオモチャじゃないんだ!
…そもそも、暇だからと言ってここに遊びに来ること自体どうかと思う。俺たちは暇つぶし団じゃないスケット団だ!

学園のため生徒のため、みんなの支えになる……学園生活支援部なんだ!
SKETとは、
"Support(支援)"、
"Kindness(親切)、
"Encouragement(激励)"、
"Troubleshoot(問題解決)"
だ!
それを何だこいつらは!
"Sabbatical(安息)"、
"Keep(留まる)"、
"Ease(ゆとり)"、
"Talk(雑談する)"
だと思ってはいないか?冗談じゃない!!

ふん、そんなに暇ならここではなく他に行ったらどうだ。
例えばゲームセンターとかな。
学生ならではではないか。

さぁ行け今行け今すぐ行け。
そしてボッスンを置いて行け。


「スイッチ、みんなでゲーセン行くんやけど、お前も行くか?」


……どうしてそうなった……


『断る』

「えー何や、用事か?」

『俺はそんな低俗な遊びはしない』

「なんやと!?いつもは行くくせに!何スカしとんねん!」


うるさい、お前たちだけで行け。ボッスンと俺の大事な時間を割くな、早く行ってしまえ。


「なんっやねん…!」

「ほっほら、スイッチ殿は行きたくないって言ってるでござろう……?
無理に引っ張って行ったら可哀相でござる」


この男……ッ!
みんなからはバレていないが明らかに俺に向けてドヤ顔をしている。
やはり振蔵はボッスンの事が……!


「ボッスン殿、拙者と行くでござる」

「え?」

『ダメだ、許さん。ボッスン、俺とここで遊ぼうじゃないか』

「はい?」

「いやいやスイッチ殿、ボッスン殿は行きたがっているのでござるよ。引き留めるのはいささか勝手なのでは?」


――振蔵……ッ
中々やるな、だがしかし、俺だって負けていないぞ。


『ボッスンが一度でも行きたいと言ったのか?
何かあったときのために録音してあったボイスレコーダーからボッスンの同意は聞こえないが?』


そう言ってカチッとボイスレコーダーの再生ボタンを押す。

そこにはヒメコ、キャプテン、振蔵の声(と、俺の歯軋り)しか入っておらず、ボッスンの声は聞こえて来なかった。


「……言うていいか?
……気持ち悪いで、スイッチ……」


――気持ち悪くて結構。

俺はボッスンさえ居てくれれば何も欲しくなどない。
プライドでも名誉でも何でもくれて――


「俺、頷いてたぜ」


俺が立ち上がり、部室から走り去った理由はボッスンのその一言だった。


「……!?
おっ、おいスイッチ!?」

「どこ行くねん!」


……馬鹿。
…馬鹿、馬鹿馬鹿!馬鹿ッ!

ボッスンは俺の事嫌いなのか?俺はこんなにもボッスンの事を愛してるというのに…
……重いのか。そうか、俺の愛は重すぎると言うのか。
ボッスンは俺の愛が重すぎてうんざりしてるのか。

そう言えば今日は1度たりともボッスンから俺に話しかけてくれなかったな。
ああやはり、ボッスンは俺がどうでもよくなったのか。

ならヒメコでもキャプテンでも振蔵でも、好きなところに行ってしまえばいい。
みんなのように盛り上がれないようなキモオタなんかよりよほどいいだろう。


――ボッスンの馬鹿…!




























「……スイッチ!」


ハッと我に返ると俺は部室の、自分の席に座っていた。

日が沈む少し前の、夕方。

ボッスンが心配そうに覗き込んでいる。


「大丈夫かよ?」

『……ヒメコは?
キャプテンと、振蔵は……』

「は?何言ってんだ?
ヒメコは今日あいつ家の用事かなんかで部活休みだって、言っただろ?
それにキャプテンも振蔵も部活忙しいから来てねーよ」

『……?』


訳が分からないまま頭のうえに"?"を浮かべていると、ボッスンはくすりと笑った。

「夢でも見てたんだろ。
……俺を差し置いてヒメコやキャプテン達の夢を見るなんて、いい度胸してんじゃねーか?」


――ああ、ボッスン、だ。
愛しい愛しい、俺のボッスン。


『……夢、』

「ん?」

『ボッスンが……みんなに囲まれて……俺が、独りになった、夢』

「……」

『ボッスンがモテモテで…みんなに、取られてしまって…
俺が、』

「スイッチ」


呼ばれて振り向けば、甘いボッスンの香りと、唇に柔らかい感触。
すぐそこに、ボッスンの顔。

こんなに近くに、あった。
愛しい人の、顔。


「……」


唇が離れた。

触れるだけの短いキスに物足りなさを感じていると、そのままボッスンはぎゅっ、と俺を抱き締めた。


「嫉妬すんなよ」

『嫉妬……』


俺のこれは嫉妬だったのか。

と、片手でキーボードを叩き言葉を繋げていく。


「気付いてなかったのか?」

『ああ』

「可愛いヤツ」

『うるさい』

「ま、そんだけ俺を愛してくれてるって……考えていいんだよな?」


――当たり前だ。

俺は誰よりボッスンを愛してるし、ボッスンへの愛は他の連中には絶対に劣らないという自信がある。


『……俺の愛は重いぞ』

「構わねーよ」

『ボッスンが思ってるより』

「俺だって、お前が思ってるより愛は重いぜ。
何よりも誰よりも、ボッスンを愛してるし、何よりも誰よりもスイッチが優先」

『…良かった』


俺がそう言うとボッスンは抱きつく手を緩めた。

ふにゃりと笑うボッスンの顔に夕日が差し込む。


『ボッスンの愛でなら、死ぬのもいいかもな』

「俺も、スイッチの愛でなら死んでもいいかも」








































「でも死ぬのはだめだからな」

『分かってる』


end.
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前サイトから持ってきました。

中山 さまへ900hitキリリク作品
ボッスイ やきもちをやくスイッチで甘々でした。