スケット団が仲違いしているという噂が生徒会で持ち上がった。
正確には藤崎と笛吹がらしい。

そんな事は我々に関係ない、と椿は言った。

しかし俺はどうも気になってしまった。
俺は、あの2人の鬼塚には越えられない、固い固い繋がりを知っているから。


愛、という繋がりが。


その繋がりが、ほつれてきているのか。

……まぁ、大方鈍い藤崎が笛吹の気に障るようなことをしたんだろう。
笛吹が藤崎に不満を持ち始め、笛吹は知らず知らず態度に出て……どうしていいか分からない藤崎はまた気に障る事を……この無限ループ、といったところか。

噂をすればなんとやら。授業後の廊下を歩きながらそんな事を考えていると、窓の向こうの校庭のベンチに藤崎と笛吹が座っていた。

2人ともうつむいてお互いを見ようとしていない。


「……何話してんだ、」


つい気になって窓の外を注視する。

喋っているのは藤崎だけ。
笛吹は手を動かしていないから、聞いているだけなんだろう。

笛吹の表情は変わらないが、藤崎の顔は真剣そのものでその中には深刻さも混じっていた。

不仲説はただの噂ではないらしい。


不意に藤崎がすごい勢いで立ち上がった。怒鳴っているらしいが、それでも笛吹は顔を上げて表情1つ変えず藤崎を見据えている。

タタタ、と笛吹の指がキーボードを叩いた。
その一言で激昂したらしい藤崎が、こちらまで聞こえるような声で叫んだ。


「もう知るかよ!!」






















スイッチは不機嫌そうに去っていくボッスンをただただ見つめている。
しかしそのボッスンは振り返ること無く校門をくぐり、帰って行った。

ため息をつく。
しかしその小さなため息は校庭に響くソフトボール部の掛け声にかき消された。


「笛吹」


後ろから掛かった、知っている声。
不意にだったがスイッチは特別驚かなかった。
ただその人物が"自分"に話しかけたという事に驚いていた。


『安形?』


生徒会長、安形惣司郎。
IQ160とも言われる頭脳を持つ、化け物のような男。
しかし妹に弱い男……が、自分に何の用なのか。

スイッチは表情を変えずに安形を凝視した。


「藤崎と何かあったのか」

『……別に、』

「さっき喧嘩してたろ」

『……』


見ていたのか、という視線をスイッチが送ると、安形は慌てて盗み見するつもりはなかったとフォローした。


『……
ボッスンが浮気しているのを見た。
その事を言ったら、ここに座らされて…弁解してきた。

話が進んで理解してきた。
許そうと思ったらじゃあお前はどうなんだ、と言われた。
俺はボッスンしか愛してないから何も言わなかった。言わなくてもスイッチなら分かってくれるって、ずっと前にボッスンが言ってた事を実行しただけ。

……何か言えよって怒鳴られた。黙ってないで何か言え、と。

俺は何も言わなくても分かってくれるんだろう、と、言った。

そうしたら…』

「……もう知るかよ、と」


黙って頷いたスイッチの表情は乾いていた。
漆黒の瞳に映るのはパソコンの画面だけ。


安形の大きな腕がスイッチの細い身体を包んだ。


校庭にカキンッ、とバットに球が当たるいい音が響く。
ソフトボールが上空へと飛び上がり、掛け声が更に大きくなった。


『……安、形』

「……俺にしとけよ」


搾り出すような小さな声で安形が囁く。
それでもスイッチは瞬きをするだけで表情を変えようとしない。


「……お前が好きなんだ」

『……』

「お前が…お前の事が……ずっとずっと好きだったんだ」


間。
ソフトボール部の掛け声だけが響く。

――分かってる。
お前が、それでも藤崎を愛してる事くらい。

それでも安形は見てみたかった。
この男の表情が……否、この男の顔を覆う仮面が割れるところを。


『すまない』


なんて硬い。

安形にそれを割る事は、不可能な事だった。








































あぁ、なんて滑稽――


end.
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