「スイッチ?」

『どうした?ボッスン』

「いや…お前がどうした?」

『なにがだ?』

「え?涙が出てっから…どうしたんだと思って」

『……
なっ、なんじゃこりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!』

「!?」












涙の










放課後、いつも通りに依頼もなく、今日はツッコミ担当のヒメコもクラちゃんと八木ちゃんと一緒にショッピングとかなんだかで不在のため、することもなく漫画を読んで暇を持て余していた。

何の気なしにスイッチの方を見やると、いつも通りパソコンの画面をじっと見つめていたが、よく見たらその黒縁メガネの奥の黒い目から涙があふれ出ているもんだから、正直心臓が止まるかと思った。

平常気取ってスイッチに話しかけたが、スイッチもどうやら自分が泣いていた事に気付いてなかったらしく、これまた驚いていた。


「なんかあったのかよ?」

『いや…特に泣くようなものを見てたわけじゃないんだが…
おかしいな。止まらないぞ』

「いや、そーじゃなくてよ…」


別に今現在の事じゃなくても、泣くようなことがあったのか聞いたつもりだったんだけどな…。

まったく、溜め込むなっつってんのに。
何かあったら言えっつったのによ。

そう。スイッチは辛いとか悲しいとか、そういう事は言わない。
何でだって聞いても『聞かなかったからだ』とか『話すような悩みはない』で済ませるような奴だ。ちょくちょく聞いてやらないと、スイッチのやつ、ぜってーパンクしちまう。


「おい、スイッチ」

『なんだ?』

「ちょっとこっち座れよ」


そう言って、いつも依頼人を座らせている畳を指差す。
スイッチは数秒じっと俺を見つめていたが、ノートパソコンを手にとり、涙を流したまま指差した場所に座った。


『俺は依頼なんてないんだが?』

「まぁまぁ。お悩み相談ってことで。」

『悩みもない』

「じゃその涙はなんだよ」

『分かってたら止めれるだろう。
目に小さいごみ入っただけなのかもしれないからな。垂れ流してる』

「ふーん。ほんとかよ?」

『あぁ。』

「お前さ、辛い事あったら話せっつったじゃねーか」


俺の方を向いたまま黙るスイッチ。
その瞳からは涙が止めどなく流れるが、肝心のスイッチは小さいごみだとか意味わかんねー事言っちゃって無表情のまま。『辛いわけじゃない』

「じゃあどういうわけだ?」

『いや、これといったものもない』

「意味わかんねーよ、」

『俺も分からない』


そう打ち終わったスイッチはいよいよ鬱陶しくなってきたのか、ズボンの中からハンカチを出し、涙を拭いた。
けどその涙が止まることはない。


「スイッチ…」

『ボッスン…止まらない
止まらない

どうして』


あぁ、そうか。
今、雨降ってんだ――


「スイッチ」

『何で
何で止まらないんだろうボッsくぁwせdrftgyふじこlp』


気付いたら、机を飛び越えてスイッチを抱きしめていた。
不意を突かれたスイッチがパソコンを膝から落としてしまった。
ガン、という鈍い音。


「スイッチ。
泣くなよ、スイッチ」


小さな嗚咽。
必死にこらえようとして漏れる泣き声が、耳元で聞こえる。
俺は抱き締める力を強くした。


「スイッチ…
俺ってそんなに頼りないか?
お前の闇取っ払うのに…俺じゃ役不足か?なぁスイッチ…」

「……っ、」


俺はスイッチが声を発することなく小さく口を動かした事に気付いた。
再びスイッチに向き合う。
何かを必死に伝えようとぱくぱくさせているスイッチの口を――……


「……!」


自分の口で、塞いだ。


「……っ、……」


スイッチから吐息が漏れる。
目を開けるとそこには涙を流しながらも、黒い瞳を堅く閉ざし、耳まで真っ赤になったスイッチの姿があった。

――やべっ…スイッチのくせに…可愛いじゃねーか…!


「……っ、………!!」

「ああ、ごめんなスイッチ」


さすがに苦しくなってきたのか、俺の胸を弱々しくトントンと叩くスイッチを解放してやった。

荒い呼吸を整え、顔を真っ赤にしたまま、落ちたパソコンを拾い上げ、再び膝に乗せた。
いつもと変わらない、カタカタという音をたてて意思を伝えてくる。


『驚いた』


単調で機械的な声。
スイッチの、"声"。


「ごめん…」

『……』

「嫌だったんだろ?ごめん、ごめんなスイ――」

『構わない』

「――え、」


ワンモアタイム。
今なんて?


『ボッスンなら構わない』

「……マジかぁぁぁぁ…!」

『……ボッスン』

「ん?な、なんだ?」

『俺はまだ閉ざしてて…ボッスンに甘えられなかっただけだ

だから役不足なんかじゃない。まぁそう思わせてた俺のせいなんだがな……すまない。』

「いんや、気にすんなって」

『ありがとう、ボッスン』

「そういう事は"お前の声"で聞かせろよ。
ま、冗談だけどな!」

そう言いながら笑って立ち上がろうとすると、視界で何かが小さく動いていた。

スイッチの、唇。

しかし


『……やっぱり、やめた。』


そう、カタカタとキーボードを叩いたスイッチ。

その表情は――




















空はいつの間にか流していた涙を止め、穏やかで温かい太陽の微笑みが、濡れた地面を優しく照らしていた。






end.
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