僕が初めて目を覚ました時、彼女は肉の塊を抱いて静かに涙を流していた。
今ならば大袈裟と言えるほど、ころころ表情を変える彼女が、その時は只呆然と、無、という表現が正しいその顔で、涙の粒を落としていた。
「ぬしは誰ぢゃ?」
彼女の紅い目が、肉の塊から僕へと移り、そんな問い掛けをする。
「僕は然だよ」
「ぜん…?」
彼女は不思議そうに首を傾げた。
その理由は簡単だ。
だから僕はこう答えた。
「僕は君から生み出されたキャラクターじゃないのさ。君と同じような存在、とでも言おうかな。だから君は僕の事を知らない。でも僕は君を知っているよ、お蝶」
「おなじ…?」
幼い彼女には理解が追い付かないらしく、再度首を傾げる。彼女の抱いている肉の塊が、僅かだが動いていた。まだ、生きている。いや、彼女がとどめをさすのを躊躇ったのかもしれない。
僕は、当然の事のように、空間を捻じ曲げて何も無い場所に切れ目を作り、そこを異空間と繋げる。その中に手を突っ込み、そこから大剣を手にして、彼女が大事そうに抱いている肉の塊に切っ先を向けた。
「お蝶。君はもう苦しまなくて良いんだよ」
刃が肉を切り裂く感覚が手の平に伝わる。
彼女の顔に、服に、血が飛び散った。
「これからは、僕が引き受ける」