節は憂を抱き抱えるようにしながら薬のクリームを手に取ると、中身を指の先にたっぷりとつけた。その指を、憂の臀部の割れ目に這わせる。

「…っ…」

生温いクリームが蕾の中に指と共に滑り込み、紅く晴れた腸壁が撫でられる。ピリピリとした痛みが走り、そのなんとも言えない不快感に憂は身を固く強ばらせた。

何がなんだかわからぬまま犯された時よりも、自分の中に異物を受け入れている事実を自覚して、頭が狂いそうになる。

「う、あ……」

口から出る声は震えて、嫌な汗が滲み出す。
指はくにゅくにゅと別の生き物のように憂の腸内で蠢き、最早それは治療の手付きではない。
クリームのお陰で滑りは良いが、やはり処女をぶち破られたばかりのアナルはきつく、きつい、というよりは固く食い込む、という表現の方が正しく思える。指を引き抜こうとしてもそこから中々動かないのである。

「すっごいきつい。よく俺の挿入ってたな」

「っ」

節の言葉にカッと顔が熱くなり、憂は唇を噛む。目の前のこの男に犯されていたんだと、今更のように思い出すからだ。
今だって、肉が裂けて腫れ上がった傷口が、指が動く度じんじんと痛む。

指の動きも段々と卑猥なものに変わってきて、指を根元まで埋め込んだかと思えば、小刻みにクチュクチュと突き上げられる。

「あ、あ、あぁっ」

その動きに憂の口からは勝手に声が漏れ出て、与えられる刺激を誤魔化そうとしてか、細い腰が左右にくねる。
未だ不快と嫌悪しかなく、憂はぎゅっと目を閉じる。だが、余計に自分の荒い呼吸とアナルから聞こえる粘着音が耳に大きく響いて、卑猥な行為を続けられているのだと再認識してしまう。

「あ、あぁ…」

早く終わってくれと願う憂の気持ちを裏切るように、指は3本に増やされ、更なる圧迫感に憂は体を震わせた。そのせいかまた吐き気を覚えて、気持ち悪い、と唾を呑み込んで喉を上下に揺らした瞬間、憂の体が飛び跳ねる。

「ひぅ…っ!?」

節の指が、腸内にある妙なしこりに触れた。憂はそれが前立腺であることを知らない。いや、存在は知っているが初めて触れられた場所に訳もわからず、目を見開く。

「ああ…ここなんだ」

節だけが理解したようで、静かに呟くとその膨らみを指の腹で強めに撫で回した。

「あっ、あぁぉあ!?」

膨らみを撫で回された瞬間、憂は悲鳴のような声を上げ、節の肩をぎゅっと掴んで全身に走る快楽の波に堪える。目は大きく開いたまま瞬きを繰り返し、波が通り過ぎるのを待とうとするが、節は容赦なく指の動きを激しくさせた。

「んぁああっ、うあ…!そこ、そこやめ…っ!」

「勃ってる」

やめてくれと言う叫びが節の恐ろしいほど冷静な言葉に遮られ、憂はビクッと肩を震わせて思わず真下を見る。そこには確かに己の雄の根が緩い角度ではあるが勃起し、先端の小さな孔から透明の液体を吐き出していた。

「……うあ…」

その事実に憂は左右に首を振り、言葉にせずとも嫌だ認めたくないと叫んだ。
排泄器官として使用していなかった場所で性的興奮を覚えるなど、男としてのプライドが一気に叩き折れた気がした。

「コッチで気持ち良くなるなんて女みたい…って思う?屈辱?超嫌?」

「……っ…」

更に節の言葉に責め立てられて、憂はぐっと歯を食い縛った。もう無理だ、と泣き喚きたい衝動を堪え、憂は自ら腰を浮かす。これ以上責められたら、自分が自分じゃなくなってしまうような気がした。

憂が腰を浮かせたことで指は少し抜け出たものの、ここでやめるなんて節が許す筈もない。
節は憂の腰を抱き寄せると自分の体に密着させるようにし、指の出し入れを再開させた。

「くぅぅううんっ!あ、ぁ…!」

不快感だけではなくなった指の動きに憂は身悶え、喘いだ。指の出し入れを繰り返される度に快楽の波が走り、自分の声が甘くなっていくのがわかる。それがどうにも嫌で自分の手で口を塞いでもみるのだが、ほぼ、無意味で。手の隙間から熱い吐息が漏れ出すだけだった。

「ふぅっ…う"ぅー…!あ"、あぁ」

憂の目が徐々に虚ろになる。節の指は遠慮なく奥をズンズンと突いて絶頂を誘う。全身が痺れて、触れてもいない男根は紅く腫れて勃起して、だらだらと先走りを垂れ流していた。

イってしまいたいという欲求が憂の中で沸き上がる。しかし同時に恐怖でもあった。実際、何回も絶頂寸前まで追い込まれた。

このままでは戻れなくなる、という恐怖が、邪魔をした。

だがそれももう限界だった。呼吸の感覚が短くなり心臓が早鐘を打つ。

「あ、あぁぁあっ、んく、ぅう…!!」

腰が激しくくねり、腸内が蠢き指を締め付け、ついに憂の男根から白い液体がどろりと溢れ出す。激しさはなく、緩やかな吐精だ。故に、余韻も長い。

「あ…あぁ…あ"ー…」

指を引き抜くと、憂は仰向けにゆるりと倒れて、そのままベッドに倒れ込む。ひくひくと体を震わせるその姿はなんともいやらしい。
アナルで味わったオーカズムは強烈で、甘い痺れが全身に強く残っていて中々正気に戻れない。

節が憂の太腿をするりと撫でただけで、憂の体は大袈裟な程飛び跳ねた。

「憂……」

どこか切ない囁きだった。
犯された時に流した、涙と同じ理由の気もした。

もう一度問いたかった。
節にとって、この行為は、暴力と等しいのかと。ただただ何処にもぶつけようのない感情を、欲求を、近くにいるものに吐き出しているだけなのか、それとも…

「憂」

もう一度名前を呼ばれて、ぴくんと憂の肩が震えた。節が、名前を呼んだ後に、小さくごめんと呟いたのが、憂の耳に届いたのだ。

「憂、頼む、嫌なら逃げてくれ。おれ、ゆうのこと壊しちまう、あぁ、ごめん、好き、なんだ、俺、憂が。憂のこと縛り付けたくなんてないのに、憂のこと、殴ったら、止まらなくなっちまって、憂の体が堕ちるところが見たいだなんて、おれ…」

「節…」

憂の目に涙が溜まっていく。
不快でも嫌悪でもない感情が、自分の中で膨れあがったのに気付いたのだ。
今目の前で綴られる異常な告白を受け入れられる程に…。

いや、そもそもこの感情が元からなければ、この男を引き取ることなんてしなかった。

愛しいのだ。泣きたくなるほど。
この壊れてしまった男の事が愛しいのだ。今はもう遠くなってしまった過去の彼ごと、含めて。

縋られて依存されることが、苦痛ではなかった。寧ろ、喜んでいた。快楽だった。悦びだった。あるいは母性にも似ている。認めまいとしていた感情が大きくなる。

ストッ クホルム症候群とかいう状態だと言われても、それでも構わないとさえ思えた。今は。

これから先、自分はどれだけ奥深く狂い落ちてしまうのか。憂は眩暈を覚えて瞼を固く閉じる。

もう、どうだっていい

その結論に行きつく程度にはもう、落ちていた。



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