何度殴られたのだろう
憂は痛む体を動かし、現状を理解しようと瞬きを繰り返した。目の下が腫れ上がっているせいか視界がはっきりしない。体中が痛む。

どうやら自分は今、床に俯せで這いつくばっているようだった。膝が痛む……毟るようにカーペットを握る。背中に重みを感じる。節が覆い被さるように自分の上にいる…なんの為に…

「……!」

己の体の異変に、憂は目を見開いた。やけに寒く感じた原因が、わかった。下半身の衣類が取り払われ、素肌が晒されている。だが、体の芯が、熱い。火に、灼かれたように。体の中心が何かで貫かれている。激痛が全身を走る。

その熱い何かでぎちぎちに拡げられた腸内。激痛の原因。
太腿に紅い液体が細く流れ落ちる。

嫌な汗がぶわっと吹き出し、歯をぐっと食いしばるも奥歯がカチカチと鳴る。呼吸が不規則になり歯の隙間から吐息が漏れる。滲んだ汗がぽたりと流れ落ちる。

「ヒュッ…、ぅ、うっ…」

悲鳴のような細い息が漏れる。
犯されて、いるのだと、気付いた瞬間、胃の中身が全部喉まで這い上がって、ついには口内に辿り着いた。

「がはっうげぇっ、あぁぁ…」

長い嘔吐に喘いでいる間も凶暴な熱の棒が己の体の中心で蠢き、揺さぶられる度に口から吐物が溢れ出す。
犯されている。己は今、犯されている。暴力による激痛に意識が飛ばされそうな中、更なる苦痛に嗚咽が漏れる。助けてくれ、と。

「ひっぐ、やめ、やめてくれ、ひっう、うっ」

苦しい程の嗚咽が襲う。パニックに陥っている為か息遣いが過呼吸に近い。
激痛と苦痛。屈辱。不快と嫌悪。

「い、ぃいやだ、あぁぁああ」

腰を掴まれたかと思えばピストンの間隔が早まり、このまま吐精されてしまうと気付いて必死に声を荒らげた。女にされてしまう、女の代わりにされてしまう、それは屈辱、という言葉よりも、恐怖を抱かせた。自分が作りかえられてしまう、そんな、恐怖。

だがそんな恐怖さえも塗り潰されるかのように、どぷっと粘ついた液体が中に吐き出される。しかも直ぐには終わらず、何度か緩やかなピストンを繰り返され最後の一滴まで注がれる。

「…ぁっ、あ"…あ…」

漸く埋め込まれた熱が引き抜かれ、一気に寒気を感じ、憂は放心状態でその場に倒れ込んだ。
ひくひくと震える後孔から、血の混じった精液がどろりと垂れる。

どうして、
なぜ、

そんな問い掛け、今、口にするほどの余裕は、ない。

ただ、己の体に落ちた水滴が、節の涙だった事に気付いて、憂は痛む体をなんとか動かして、節の手を掴もうとした。

だが、長い時間暴行と強制的な性行為を受けた体は精神さえも打ちのめされ、憂の意識はそこで途切れる。

ゆう、と節が小さな声で呼んだのに、応えられぬまま…




憂が意識を取り戻したのは、日暮れを迎えた頃。
背中の柔らかい感覚と見慣れた天井に、ベッドで寝かされていることに気付いた憂は、その体を起こそうとした。が、その途端全身に激痛が走る。

「うっ…」

一度は浮かせた体を再びベッドに沈め、憂は長い溜息を吐いた。痛む目の下に手をやろうとしてーー気付く。ガーゼの感触が指先に伝わった。目の下だけではない。節の暴行で受けた傷全てが、治療、されていた。

「節……?」

受けた暴行も、レイプと呼べる行為も、夢ではなかったのだなと実感すると共に、治療してくれたのもその本人なのかと、憂はそっと彼の名を呼んだ。

節はすぐ近くにいた。
憂の足元、ベッドの横にしゃがみこんでいる。傍には、必死で探したのだろう、色々と中身がひっくり返った救急箱が転がっていた。

名前が呼ばれると、節の首がゆっくりと、憂の方へ曲がる。虚ろな…いや、今にも泣き出しそうな目で、憂を見つめ返して。何かを言いたげに、でも、唇を噛んで、堪えて。

「節……」

憂はもう一度、節を呼んだ。
なんとか動く右手を浮かせて、手招きしながら。
その手招きに誘われるように、節は膝立ちでのそのそと憂の顔の方へ近付いていく。節の口が開く前に、憂は先に節に尋ねた。

「落ち着いたか…?」

「……ぇ」

憂の言葉に、節は戸惑いを隠せなかった。
途端に、ガタガタと体が震える。

「憂……なんで、そんな、だって、おれ、」

「覚悟は、していたからな」

動揺する節に、憂はなんてことないんだ、と笑うように言葉を続ける。

「お前は力が強いんだから、抑えようとしたってこうなるって……わかってた…」

「……憂」

「でもな……節」

ビクッと節の肩が震えた。憂の言葉に怯えているのだ。聞きたくないと、今にも耳を塞ごうとするかのように両手が顔の横まで持ち上がる。
手で耳が塞がれる前に、憂は言った。

「お前が俺を犯した理由は、暴力と同じものと考えていいのか」

節の動きが止まった。
目を見開き、震える口を開け、また閉じて。顔を歪ませ、目が潤んだ時、小さな小さな声が節の口から漏れ出た。

「そう、思ってくれても、構わない……」

「……」

なんて曖昧な返事だ…と、憂は笑う気力もなくした。
さっきも言った通り、入院しているころから節は癇癪をおこすかのように暴れる男となってしまったのだから、吾郎から節を預かった時点で、自分も暴行を受ける事になるだろう事は、予想していた。

だが……性行為は流石に予想外だった。男であれば、鬱憤を吐き出す行為として、弱い者を犯す事も、ないとは言い切れないが…。だからこそレイプというものがあるのだから…。

節の暴力行為は……感情のコントロールが効かなくなり、暴走した結果だと、推測される。
それと、一緒、なのかと、憂は節に問い掛けた。暴走した感情の、捌け口、だったのかと。

「嫌、だったよな」

節が、ぽつりと言う。憂はその言葉に、何故か、応えられなかった。
酷い不快感と嫌悪感を味わった直後、にも関わらず。

憂が黙っていると、節がベッドの上にのっそりと上がって、憂の顔の横に手を置いて体重をかけ、その顔を覗き込んだ。体重をかけた分だけ、ベッドが沈む。

「治療……まだ終わってねぇんだ」

「…?」

「中に出したやつ、処理はしたんだけど」

「……っ…」

節の言葉の意味がわかってしまい、憂はその顔を強ばらせた。恐怖が、蘇った。だけども節が、静かな顔でじっとこちらを見つめて、優しく前髪を撫でてくるものだから、憂はどうしたら良いかわからず、とりあえず視線を節から逸らす。

「俺が全部やるから。憂……」

「あっ、う」

抵抗する余裕もないまま、憂はそのまま節に持ち上げられて、ベッドの上で座り込む節の膝の上に乗せられる。無理矢理動かされた体はズキズキと痛み、憂は思わず節に寄りかかるように抱き着いた。

「そのまま動くなよ、憂」

命令のような言葉にゾクッと鳥肌が立つ。しかし憂にはどうすることも出来なかった。



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