紗衣が山野井達を呼び出していた頃のとある公園。
 タバコを吹かしながら、下品に騒ぐ男達。
 彼らから若干離れた所で怯えた表情でしゃがみ込んでいる幼い少女の手足は布で縛られている。
 
「つうか遅ぇー」
「なぁ姉ちゃんいつんなったら来んの?」
 
 ビクッと身体を震わせた紗衣の妹香苗の反応に、男達が一斉に笑う。
 
「何コイツ! ビビり過ぎだろオレ等まだなんもしてねぇっての!」

 じゃあなんで私はここにいるんだ!!
 思わず反論しそうになって、香苗は唇を噛んだ。
 口答えして怒鳴られるのが怖かった。殴られるかもしれない。
 
 学校の帰り道、コンビニの駐車場で溜まっていたこの男達と目が合ってしまった。
 
 不良達にとって邪魔な存在である紗衣にそっくりな香苗には、たったそれだけが命取りとなったのだ。
 
 逃げる間も与えられず捕まり、訳もわからないまま公園まで連れてこられ、あげく縛られ。
 その姿を写真に撮られた。
 どこかに送っているようだったが香苗にはどうでもいい。
 
 どうにかして逃げ出したかった。
 
 怯えるしか反応を見せない香苗に退屈したのか、不良はまた少女から離れた所に戻って行った。
 
 それを見て、何とか自身の自由を奪う布を解こうと試みても締め付けは緩くなる様子を見せない。
 あまり大きく動けばバレてしまう。
 焦りと恐怖に心臓が忙しなく鳴りっぱなしだ。
 
 早く、早く。
 
「テメェ!!」

 全身に緊張が走った。石のように体が固まる。
 
 だが視線を彷徨わせても誰一人として香苗と視線が交差しなかった。
 どころか全員が背を向けて入口の方を見ている。
 
 どうやら香苗に怒鳴ったわけではないらしい。
 どっと汗が噴き出す。
 
 少しだけ首を傾けてみれば、公園の入り口に一人の少年が立っていた。
 香苗よりは大きいが、ここにいる不良達とは比べるまでもなく子供の体格をしている。
 
 少年は怯む事なく冷静に全員を見渡し、最後にゆっくりと香苗を見た。
 


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