▼2 みんなにどのケーキがいいか選んでもらおうと箱ごと持って行ったのが失敗だった。 箱を開けたら中に姉からの手紙が入っていた。 「香苗へ イケてるメンズとホームパーティを楽しんじゃいなYO☆」 文章はその一行だけ。ツッコミ所はあれどこれはまあいい。許容範囲だ。 しかしその下の絵がいただけなかった。 悪ふざけとしか思えない、玉虫に髪の毛生えましたみたいな顔の子の絵が描かれていた。 目鼻口のパーツは、平安美人? っていうようなすっとした感じだし、うん、怖い。 まるで生気が感じられない。 しかも吹き出があって「YOU,やっちゃいなYO☆」って台詞つき。 お姉ちゃん!? どうしちゃったの、何この残念クオリティ!? これわざと!? わざと下手に描いたの、むしろこんだけ気持ち悪く描けるの才能だよ!! これ見た瞬間に時芽と基が大爆笑して、おさまりかけた所にもう1回見て再発。 を3回くらい繰り返して、いまやソファからずり落ちてカーペットの上に蹲ってる状態だ。 「か、かなちゃ!」 「カナ、カナくんが……!」 「オレじゃないもん!!」 そうなのだ。この絵の下に馬鹿丁寧に「香苗」と書かれていたのだ。 この絵の主はなんと私らしい。 お姉ちゃんから見た私ってこんななの!? 「もう! 稔から何か言ってやってよこの二人ヒドい!」 基と時芽は向かい。稔は私の隣に座っている。 2人が腹抱えて大笑いしている間、稔はずっと黙ってたから気付かなかった。 彼は私に背を向ける様に身体を捩って、クッションに顔をうずめていた。 肩がひくひくしてる。 お前もかい!! すごいよお姉ちゃん、お姉ちゃんの画力は全員の腹筋を崩壊させたよやったね! 「あらあらどうしたの? さっきからすごい笑い声が聞こえてたけど」 仕事の電話が掛かってきたらしく席を外してた母がやってきた。 姉の手紙を見せると「似てるわね」と言いましたこの人。 姉の芸術センスは母譲りらしい。 その発言に3人またも撃沈。 ちくしょう、グレてやる。 「で、お母さんはどのケーキにする?」 「私はいいわ、すぐ仕事戻るから」 最初から挨拶だけのつもりだったのよ、と。そうなんですか。 わざわざ仕事抜けてきてくれたのか、ちょっと悪い事したなぁっていつもなら思うだろうけど、今の私はそんな風に考えられるほど心に余裕ない。 もう二度と姉に絵は描かすまい。 前 | 次 戻 |