初めてだよ
「おじさん、ぼくと一緒にいてくれるの」
「当たり前でしょ。もう今更さよならできるわけない」
膝へ乗せて抱きしめると首筋へがぶり。八重歯が食い込む。おしりを抱えてさり気なく撫でる。若い弾力に満ちたぷりぷりのおしり。
一緒にいてくれるの、は、俺のセリフだ。
*
模試から帰ってきてお風呂に入り、ご飯を食べてからソファで右京が語ったのは、公園に至るまでの話だった。
実の父親からは肉体的な暴力を受け母親からは性的な暴力を受け、それでも一緒にいてもらいたかったこと。
でもどちらもそうしてくれなかったこと。
お金は腐るほどあるけれど満たされずに、身体を明け渡すことを覚えたこと。
引っ掛けた相手が権力者と食事するだけでお金をくれるアルバイトを紹介してくれたこと。
好きだよ、と言われて一緒に暮らしても相手はすぐにいらないと言い、何度も捨てられたこと。
求めても求めてもずっと満たされなかったこと。それは息をするのも苦しくなるくらい、辛かったということ。
淡々と話していたけれど右京の手は俺の手をしっかり掴んで離さなかった。
「でもおじさんと一緒にいると、楽しさと嬉しさでいっぱいになる。ぼく」
そう言って笑う。
「おじさんをずっと見てたよ。背筋が伸びてて優しそうな目、してて、ああいう目で見つめられたらきっと、毎日……しあわせだろうなって。やっぱり、今、すごくしあわせ」
そう言って抱きついてきたから、膝へ乗せた。そしておしりを撫で回している。
右京は歯型をぺろぺろ舐めて、俺の耳元で言った。
「ありがとうおじさん。だいすき」
「俺も。右京が大好きだよ」
引き締まった腰を引き寄せて、上半身を密着させる。右京の体温はすっかり俺に馴染んで、夜はきっともうこれなしではいられない。
「おじさん。陵司さん」
「なに?」
「おじさんは、どうしてぼくを拾ってくれたの」
「可愛かったから」
「ほんと? それだけ?」
「うん。あんな可愛いこが家にいてくれて一緒に暮らしたら楽しいだろうな、って、それだけ」
「……ぼく、この顔で良かった」
ふふふと嬉しそうな笑い声。
見た目以上に中身はもっと可愛くて、おじさんはガッチリ心をつかまれちゃってるんだけど。黒髪ふわふわの後頭部を撫で、甘噛みされる感触を楽しむ。噛み癖だって可愛い。
「右京」
「なに?」
「俺を見つけてくれてありがとう。出会えたことが人生で一番の幸せだよ」
もし右京が俺を見つけてくれなかったら。気づいてくれなかったら。きっと出会うことはなかった。
俺の顔を覗き込んできた目は今にも水の奥に沈んでしまいそうなくらい、潤む。
「意外と泣き虫だよね」
「おじさんのせいだよ」
親指で拭って目尻へキス。可愛い。可愛い。こんなに俺をハマらせてどうするんだろう。
首筋へキスをして、Tシャツの中へ手をもぐりこませる。細い腰を撫でると身体が震えた。なめらかな若い肌は吸い付くよう。
「……初めてだよ」
震える息混じりに、右京が呟いた。
「なにが初めて?」
「……恋人? と、セックスするの。すごく緊張する」
瞳はもう欲情していて、けれどその顔には処女のような緊張感。俺が小さく笑うと、軽く肩を叩いてきた。
なんだろう、とても嬉しい。
右京がずっと守ってきた一番純粋なところへ触れるような――特別なものを感じる。
「じゃ、こんなとこじゃダメだね。ベッド行こうか」
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