Lesson.03

人は欲しかった物が手にはいると、また違う物が欲しくなるもので。
僕は君との距離を縮めたくなったんだ。
それはワガママなことかな?


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 今日は午後の講義が一つ休講になったこともあり、僕は月子と二人で、見たかったDVDを数本借りてきた。そして一人暮らしの僕の部屋まで手を繋いで帰ってきた。
 僕はソファーに腰掛け、月子は床に座りソファーを背もたれにしながらDVDを観るている。
 視線をテレビから移し、月子を眺めながら思う。
 最近は目を見て話せるようになったし、月子から手を繋ぎたいと言ってくれるようになった。

 ――だけど。

 僕だって男なわけだし、やっぱりそれ以上を求めたくなるのは当たり前なことだと思う。
 それに、たまに見せる月子の仕草とか表情とかは反則だ。月子は無意識に出しているだけだろうけど、僕にとっては毒そのもの。忍耐って言う言葉が身に沁みてきた。
 月子が僕に信頼を寄せているのだろうけれど、逆にその無防備さが心配になってしまう時もある。
 多分というか、僕は付き合っていると言う確固たる証拠というか自信が欲しいんだろうな。
 ……情けないけどね。

「ねえ月子」
「なあに?」

 くるりと振り返り僕を見つめる瞳は、いつ見てもキラキラと輝いている。

「遥、どうしたの?」

 月子の、クッションを抱きながら首を傾げて訊ねる姿が可愛くて、僕はぎゅっと抱きしめたい衝動を抑えながら、僕も可愛らしく月子にお願いをする。

「キス、したいな」
「――え?」
「月子とキスしたい」

 しばらく固まったままだった月子は、僕の言ったことを理解したのだろう。みるみるうちに顔は真っ赤になり、下を向いてしまった。
 僕はソファーから下りて、月子の隣に腰を下ろした。下を向いたことにより肩から滑り落ちた月子の長い髪、それによって見えた真っ白い項が目に入る。

 ――だから月子は反則なんだ。

 僕は頭をボリボリとかいて自分を落ち着かせる。
 耳まで真っ赤になって、クッションに顔を埋める月子に、僕はもう一度お願いをする。

「キスしちゃ、ダメ?」

 月子はピクリと動き、少しだけ顔を上げた。

「ダメ?」

 僕は改めて聞いてみる。月子は、きっと『ダメ』とは言わないと思う。
 だけど、月子がまだ無理と言うならやっぱり無理強いはしたくない。
 まあ、それまで僕の理性が持つか正直不安だけれど。

「あ、の」

 月子の小さいな呟きに耳を傾ける。クッションを抱きしめる月子の白い手が綺麗だと、ふと思う。

「あの、ね。わたし、キス、したことなくて。だから、あの、やり方とか、わからなくて」

 本当に消え入りそうな小さい声。顔にかかる髪をそっと払って、月子の頬に触れる。身体全体に緊張が走って、カチカチに固まる月子の身体。
 僕は優しく抱きしめて、笑いながら話しかけた。

「やり方とか、気にしなくていいんだよ。それに僕は嬉しいし。なんでかわかる?」

 月子の髪を撫でて、柔らかい髪に顔を埋める。

「月子のファーストキス、僕が貰えるんだから」
「……ばか」

 月子は少し笑いながら呟き僕の服を握った。
 僕は服を握り締める月子の手を包み込むように握り返した。

「……もう少し、顔を上げて欲しいんだけどな?」
「も、無理……」

 ぎゅっと下を向く月子は、頑なに無理無理と首を横に振る。

「ちゅって、するだけだよ?」
「その、ちゅっていうのが恥ずかしいの」
「うん、そうだね」

 僕は月子の頬を撫で、下を向きぎゅっと目を瞑る月子を覗き込んだ。
長く、ふるふると震える睫、目尻に滲む涙。その全てが綺麗だと思った。
 僕は愛おしい彼女の唇にそっと、触れた。
 柔らかい唇の感触。
 ゆっくりと唇から離れて、まだ残る感触と温かさの余韻に浸る。
 キスの後も固まり続ける月子を、恐る恐る抱きしめた。

「大丈夫?」
「……だ、め」
「え? 月子?」

 月子は力が抜けたのか、僕に寄りかかり、額を僕の胸元にコツンと当てた。

「恥ずかしかった?」

 僕は月子に訊ねると、コクリと頷く。
「イヤだった?」

 少し間はあったけれど、首を横にふるふると振った。
 僕はぎゅっと月子を抱きしめて、おでこにキスをした。
 驚いたように顔を上げた月子に、僕はいたずらっ子のように笑った。

「少しずつ『ちゅー』に慣れていかないとね」

 この先もっと、月子にとってはイロイロと大変なことがあるだろうし。
 ――僕は問題ないんだけどね。
 困ったような表情の月子に、僕は笑っておでこに、瞼にキスをして。
 最後に一つ。
 もう一度あの柔らかい唇にキスをした。


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