Episode.03
「いやあ……いいもの見たわあ。世の中にあんなカップルいるとは思わなかった。美男美女ってあの二人のことだよね。本当にいいものみたなあ」
「……よくしゃべるな」
「だって気分いいし、酔ってるしさ」
「だよなあ」
ふみはいつも以上に饒舌で、ケラケラと笑い、身振り手振りを交えながらさっきまで一緒に飲んでいた友人カップルの感想を述べていた。
あんな美男美女初めて見たとか、月子ちゃん可愛いとか、桜沢くんは王子様みたいとか、出てくる言葉はお褒めの言葉ばかりだ。
――実際その通りだから否定もしないが。
「言った通りだっただろう? あいつらの存在感ハンパないって」
「本当。二人とも自然と目立つ感じだった、特に桜沢くん? あれは天性の何かを感じる。いやあ……格好良かったよ」
一人納得したように何度もうなずき、そして俺を見上げる。じっと見つめられ、少し居心地が悪い。今の会話の後だからか、何となく言いたいことを察してしまう。
「俺と遥を比べても仕方ないぞ」
「当たり前じゃん。哲と桜沢くん全然違うじゃん。哲は哲だし。それに、わたしは哲が好きなんだからさあ」
ふみはニコニコ笑いながら俺の手を握り、前後にブンブンと振ってきた。足下がおぼつかないが、多分スキップをしてるつもりだろう。
「おい、ふみ気をつけろって」
「わたしは哲が好きだよ。ぶっきらぼうだしがさつだしイケメンではないけどさあ」
「お前言い方――」
「でも、時間合えば大学まで送ってくれるし、迎えにも来てくれるし、言葉遣い悪いけど優しいし、イベント毎はちゃんと覚えてるし、友達思いだし、十分じゃない? イケメンじゃないけどお」
「イケメンじゃないのはわかってる、二度も言わないでいいだろう――」
「ごめんごめん」
ふみは声に出して笑い、さっきよりも手を勢いよく振りだした。
「ふみ、痛いって」
「楽しいねえ、また一緒に飲みたいなあ」
「また声かけてみるよ」
「よろしくう」
鼻歌を歌うぐらいだから、本当に楽しかったのかもしれない。俺の友達だけしかいない飲み会だったのに、楽しんでくれたのは嬉しかった。遥たちも楽しんでくれていたらこの上なく嬉しい。
「今度はふみの友達とも飲んでみたいな」
「お、いいねえ。声かけてみるよ。きっと喜ぶよ、哲に会ってみたいって言ってたし」
ふみは早速スマホを取り出し連絡し始めた。慌ただしい奴だと横目で見ながら、人にぶつからないよう手を引きながら駅へと向かった。日中はだいぶ日差しも強くて暑いくらいだが、夜はまだまだ肌寒く感じる。
「寒くないか?」
「お酒パワーで暑いくらい」
「――そういや、あの二人まだ付き合ってないの? ましろちゃんだっけ?」
「あれ、言ってないっけ? 付き合い始めたって」
「はあ!? 聞いてないわ! あれだけ相談というなの愚痴に付き合ってやって、結果報告もなしかよ」
「言ったつもりだったんだよ、ごめんて」
さっきまでの笑顔がなくなり、泣きそうなふみの顔に若干焦る。
――笑い上戸の次は泣き上戸か。
俺は頭をかきむしり、大きく息を吐くとふみの頬を摘んだ。きょとんとするふみに苦笑いしかない。本当に言ったつもりだったんだろう。多分、付き合い出した二人のことが自分のことみたいに嬉しくて、俺に報告するのは後回しか、もしくは完全に忘れてたかのどちらかだろう。まあ、正直俺も今の今まで忘れてたわけだから、ふみを怒るつもりもない。
「怒ってないよ」
「ほんとに?」
俺はふみの頬を摘んでた手をぱっと離し、居酒屋で貰った飴を頬張った。ついでにふみの口にも突っ込む。
「俺も今の今まで二人のこと忘れてたしさ。今楽しそうならよかったよ」
「――うん、本当に楽しそうだから嬉しい」
「俺もふみが楽しそうにしてくれてたら嬉しいから――」
俺はにやりと笑ってふみの手を取り、足早に駅へと向かった。少し小走りで付いて来るふみは、「ちょっと」とか「哲早いっ」とか言ってるが、俺は聞こえないふりをして目的地へ急ぐ。
そして、俺はごく当たり前のようにふみに尋ねてみた。
「なあ、久しぶりに俺んち泊まっていかない?」
「――は?」
「たまには俺たちも幸せ感じてもいいんじゃない?」
「わたしはいつでも幸せだし!!」
真っ赤な顔で叫ぶふみを、声に出して笑ってしまった。そんな俺の背中をガンガン叩くふみを無視して、俺はふみの手を強く握りしめた。
――ふみはこの手を振り払わない。
そう確信しているから、ふみが乗る電車とは違う番線に向かって歩き始めた。
「おばちゃんにはうまく言っておいてね?」
「――ばか」
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