Lesson.05-1

いつかはこんな日が来ると思ってた。今までなかったことの方が不思議なくらいだったし。

月子は僕のなんだ。誰にもやらない。
そう、絶対にだ。



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 なんてことはない秋晴れの平日。いつものように大学の講義をサボって、哲と二人で駅前をぶらぶら歩いている。

「腹減った」
「もう一時半だしね」
「まあ、おかわり無料のためだし、仕方ないけどさ」

 哲は腹をさすりながら、今日は何定食にしようかと呟いて鼻歌を口ずさむ。
 今、僕たちは行きつけの定食屋に向かっている。学生にはありがたいリーズナブルな価格帯で、量もはんぱなく多い。ついでに、午後一時過ぎに行くとご飯がおかわり無料という破格の対応なのだ。
 そんなありがたい食堂を毎回活用している僕たちは、店長からおかずを一品サービスしてくれる仲にまでなっていた。

「遥は今日何にする?」
「僕? 今日は焼き肉定食にするって決めてきてるよ」
「焼き肉定食もいいよなあ……でも唐揚げ定食も捨てがたいし……」
「すぐ注文したいから着くまでには決めといてよ」
「おう」

 僕は空を仰ぎみた。
 夏の空とは少し違う薄い青の空と、色づいてきた葉の紅葉や黄葉と、心地良い風と暖かさに自然と欠伸が出てしまう。

「秋はいいな」
「俺は夏の方が好きだけど」
「哲には聞いてないし」
「……遥、もう少し俺に優しくしても罰は当たらないと思うぞ」

 僕を恨めしそうに横目で見つめる哲を無視して、ふと反対側の歩道を眺めた。
 そして本当に偶然、僕の視界の中に愛おしい人の姿を見つけた。声をかけようにも反対側にいるから、僕は携帯に電話をかけようとした時、ボタンを押す指が止まった。
 一人だとばかりに思っていた月子の横には、僕の知らない、見知らぬ男が立っていた。それも、月子は楽しそうにその男と談笑している。その笑顔は、僕に見せる笑顔と遜色がなくて、少なからずショックを覚えた。

「――遥? どした?」
「月子がいる」
「え、ほんとに! 月ちゃんも誘っていこうか」
「あそこ、男と話してる」
「は? なに?」
「哲、後で行くから先行ってて」
「遥!」

 哲が僕の名前を呼んでいるけど、僕は立ち止まることなんてできるわけがなかった。ただ、一心に月子の元に行きたかった。隣にいるのは僕なんだって、言いたかった。
 交差点の信号もタイミング良く変わって、僕は人にぶつかりながらも視線は月子から離さなかった。これ以上速く走れない自分に舌打ちしてしまう。そうこうしている間も、月子と男は談笑してどこかに移動しようとしている。

「月子!!」
「――え? あ、遥?」

 振り返った先に僕がいるとは思わなかったんだろう。月子は目をまん丸くして僕を見つめていた。
 それもそうだ、本当なら講義に出てるはずだしね。
 僕は両手を膝に付きケホッと咳き込んだ。ドクドクと響く心音が耳に障って気持ちが悪くなる。

「遥、大丈夫? 走って来たの?」
「そ、う。月子、見つけ、た、から」

 駆けよって来た月子が僕の頬に触れた。月子の白い指はひんやりとしていて気持ちが良かった。ほんの少しの距離だったけど、全力で走って来た僕の身体はどうやら火照っていたらしい。

「ごめん、大丈夫だから」
「ホントに?」
「うん、ありがとう、月子」

 僕は心配かけないように微笑んで体を起こした。まだ、正直視界は揺れていたけれど、そんなにへばってもいられない。だって、月子の後ろには未だ見知らぬ男が立っているからだ。


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