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 待ち合わせの場所は人混みを抜けた中庭の一角。ちらちらと遥に視線を送る女の子たちには気付かないふりをして、ただ月子ちゃんを待つ。

「ところで勧誘の方はどうよ?」
「まあまあかな。女の子の食いつきがイイかも」

 俺はまあそうだろうと納得する。遥に声を掛けられれば立ち止まって話を聞いていくだろう。それも女の子たちは頬を赤く染めながら。

「お前が言うと嫌味でも何でもなく、実際そうだから何にも言えなくなるよ」

 なんとなく口寂しくなり、ラスト一本となった煙草をくわえる。喫煙所ではないので火を点けられないが、あの独特の味と臭いが口の中に広がる。

「僕の話を聴く聴かないにしろ、入部して続けてくれればそれでいいんだよね」
「まあな」

 俺と遥は自然と人でひしめき合う勧誘風景を眺めた。この風景は、あと二週間近くも続くと思うとげっそりしてきた。
 すると、その人混みの中からこちらに抜け出てくる影を見つけた。

「あ、来た」

 きょろきょろと辺りを探す姿を見つけ、手を振って月子ちゃんに知らせる。するとそれに気づいて笑顔で応えてくれた。
 小走りでやってきた月子ちゃんは、はたと走るスピードを落としゆっくりと近づいてくる。俺の隣に立つ遥に気づいたようで目を見開く。

「あ、れ。遥?」
「お疲れ様、月子」

 カランコロンと下駄を鳴らし、浴衣姿の月子ちゃんが俺たちの前で立ち止まる。

「どうしたの?」

 きょとんとした瞳を遥に向け、そして俺の顔を見つめた。

「なんか俺と月子ちゃん二人で会うのが気になったらしくて、ああだこうだウルサいから連れてきた。あと」

 遥が何か言う前に、俺は月子ちゃんの耳元で囁いた。ちらりと遥の方を見ながら。

「月子ちゃんの浴衣姿を見たかったみたいだよ」
「哲」

 ワザと聞こえるように話していたので、もちろん遥にも聞こえただろう。
 仏頂面な遥とニヤニヤ笑う俺の顔を交互に見比べ、月子ちゃんはクスクスと笑った。

「哲くんにやきもちやいたの?」
「……そんなことないよ」

 口ごもる遥は視線を泳がせ、真正面から月子ちゃんを見ることが出来ないでいた。
 俺はその光景に笑いを堪えることが出来ず、顔を覆い肩を震わせる。

「遥、お前、可愛すぎる」
「それ以上笑ったら間接きめるからね」

 笑いすぎて話すことが出来ないので片手で合図をする。ひーひーとひきつる肺と気管を落ち着かせる為に深呼吸をした。


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