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 こんな表情もするんだな、俺は煙草の煙を吐きながら思う。月子ちゃんもそうだけど、遥も表情豊かになった。お互いにいい影響を与えているんだろう。

「じゃあ月子ちゃんに会いに行く? 今から会う約束してるし、俺」

 立ち上がり煙草を揉み消してどうする? と遥に視線を送る。

「……いつのまに連絡取り合うような仲になったの」

 そんな怖い顔で見ないでよ、遥ちゃん。首筋がチクチク痛いんだけど。
 遥もゆっくりと腰を上げ、付いてくる気配を見せる。

「同じ学部で遥という共通点を持ってれば自然とね。だから頼むから蹴んなって」

 遥は俺のケツを突き飛ばすように、だけどこれは確実に前蹴りの要領で、何度も蹴られ続けた。
 友人の俺に対する仕打ちがコレだと、他人にはどうなるんだ。
 暴れる遥を宥めながら歩いていると、ふいに遥の攻撃が止まった。

「ところでさ」
「あ?」
「月子に何の用なの?」

 無表情ではあったが、何かあればはったおすといった無言のプレッシャーを感じ取る。
 頼むから毛を逆立てないでほしい。

「時間割、見せてもらおうと思ってさ」
「時間割?」

 俺は遥の訝しげな声を気にも止めず、この人混みを抜けることだけに集中した。

「学部も一緒だし、もしよければ今年取る講義を参考までに教えてもらおうと思ってさ。かぶればそれで良し、かぶらせられればそうしようかと」
「……哲、それはもう参考とは言わないから」

 遥は呆れたと言わんばかりに息を吐く。
 参考とは口だけの言い分だと自分でもわかっていたので無言を通す。

「月子に頼るなよ」
「頼るんじゃなくて、協力体制です」
「何を協力できるのさ」
「それはこれから考えるさ」

 その直後、遥から一発蹴りを入れられたのは言うまでもない。

「――暴力反対」

 ケツをさすりながら呟いた俺の言葉は、学生たちの熱気と喧騒でかき消された。


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