贈る言葉

 一年前に別れた彼女が結婚する。
 そのことを知ったのは、先日久しぶりに会った共通の友人からの報告だった。招待状を見せてもらうと、そこには彼女と新郎の名前が並んでおり、それが現実なのだと実感する。
 別れて一年での彼女の結婚に対して友人は嫌悪感を示していたが、俺は不思議と何も感じなかった。
 決して破壊的な別れをしたわけではない。ただ、彼女には俺以外に、俺以上に大切な人がいた。そして俺はその彼女の想いに気づき、知ってしまった。その時点で二人の行く末は決まってしまっただけのこと。
 そして俺は、何の前触れもなく別れを切り出した。彼女は目を丸くし、そして見る見るうちに顔は歪み嗚咽を漏らす。その合間合間に聞こえてくるのは「ごめんなさい」と繰り返す彼女の言葉だった。
 おそらく、彼女は俺からの別れを予想していなかっただろう。だから敢えて自分から別れを切り出した。
 振られることが怖かったわけではない。惰性で付き合われることに対して、俺が何も知らないと思い込んでいることに対して、ほんの少し優位な立場にいる彼女に対して、悔しいと思わないと言えば嘘になる。一瞬でも、彼女の中に後悔の念が起こればそれでいい。
 別れたのは付き合い始めて四年目の記念日だった。




 今、まさに彼女の結婚式が行われている。
 もう俺には見せることのない、あの笑顔をふりまきながら彼女は幸せになるのだろう。俺は徐に携帯を握りしめ、一年前までは毎日のように見ていた携帯番号に発信する。コールが数回続き、留守番電話に切り替わるアナウンスを聞きながら目を閉じ深呼吸をする。
 君は少しでも幸せだっただろうか。少しでも俺との未来を夢見てくれただろうか。
 君との時間は俺にとって何物にも変えがたい有意義な時間だった。その思いに、嘘はない。
 いつかの未来に顔を合わせて笑い合い、その時はお互い幸せな家庭を築いていることを信じて、今はこの言葉を贈ろうと思う。

「結婚おめでとう」

 君を心から愛していたよ。
 自然と流れ出した涙の意味を、俺は一人考えていた。


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確かに恋だった
『君に、捧ぐ(胸いっぱいの花を、)』


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