愛のかたち

 もし地球上で、わたしとあなたの二人だけしかいなかったら、わたしたちがいる場所はどこになるのだろうか。

「もちろん風呂の中だな」
「お風呂?」
「そう。今みたいにさ」

 狭いユニットバスに湯を満タンに張り、彼の背中に寄りかかるように座り身を預ける。湯の温かさと彼のぬくもりが背中から伝わり、わたしはぴちゃぴちゃと水面を波立たせる。
 彼はわたしの臍の前で指を組み、身体を抱き寄せる。

「二人しかいない世界で、もしわたしが死んじゃったら一人なるでしょ? そうしたらどうする?」
「なに、その地の底にいるみたいな暗さ」

 彼はわたしの胸を触りながら嘆く。仕方ないじゃない。最近そんなことばかりが頭に浮かぶのだから。彼の優しい愛撫によってわたしはトロトロと溶け、切ない息を吐く。
 しばらく考え込んでいたのだろう。「決めた」と呟き、わたしの名前を囁く。それだけでわたしはピクリと身体を揺らす。

「もしお前が死んでも、朽ち果てるまで抱きしめててやる」
「……ほんとに?」
「どうせ他にやることもないしな」

 わたしは狭いユニットバスで身体の向きを変え、彼の真正面を向く。彼の胸板に手を置き心拍数を確認する。正しく鼓動を刻む彼の心音に安堵と哀愁を感じる。
 わたし達は一体いつまでこの世界に生き続けるのだろうか。
 わたしが死んで動かなくなり、水にふやけて溶けてなくなり、この水の一部となっても彼は愛し続けてくれるのだろうか。わたしは顔を寄せ、彼の唇に触れる。ぴちゃりぴちゃりと跳ねる水滴の音が耳に障る。

「溶けてなくなったら、その水を飲み干して生きてやるよ」
「なんか気持ち悪い」

 お互い笑いながら首に腕を回し、触れるだけのキスから深く舌を絡ませる。ゆっくりと離れた唇はてらてらと輝き、わたしは意識的に舌で舐めとる。

「なあ」
「なに?」
「挿れていいだろ」

 熱を持った彼の塊を下腹部に感じていたわたしは、特に肯定も否定もしなかった。わたしが何と言おうと、彼は自分の思いのままに行動するからだ。そしてわたし自身も彼を欲していた。彼はゆっくりとわたしの中に入り込み、ずっしりとした圧迫感をわたしに与える。
 水面が波立ち、波紋が幾重にも広がる。何度もキスを交わし、何度も愛を囁く。突かれる度に漏れる吐息と涙に、彼は優しく口付けをする。

「好き」
「知ってるよ」

 わたしは陳腐な言葉を吐き、彼に身体を預けた。
 もしあなたがわたしよりも先に息絶えたら、わたしはあなたの血と肉と骨と、ありとあらゆるものを食し、わたしの身体の血肉となりあなたと共に生き続けようと思う。
 わたしは愛おしい彼の首筋に噛みついた。


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