喧嘩の後はキスをして
喧嘩をした後は、なぜ人肌恋しくなるのだろうか。
畳の上に敷かれた一人分の布団に二人で寝転がる。枕に肘をつきながら、隣に寝転がる彼氏の眉毛を引っ張り、抜いた。
「――痛いんだけど」
「そりゃあ抜いてますし」
「何で抜くの」
「何となく」
一本だけ抜けた眉毛をフッと吹き飛ばし、わたしは布団の中に潜り込む。
会話はそこで途切れ、時計の秒針の音だけがいやに響く。目を閉じて寝ようとするにも、先ほどまで泣いていたため目がゴロゴロして違和感がある。目を擦っていると彼はもぞもぞと動き、わたしの方を向く。
「泣き止みました?」
「――だいぶ前から泣き止んでますが、なにか」
彼は眠たげな顔のまま、わたしの腰に手を回し抱き寄せる。
「ごめんね」
「なにが?」
「怒鳴ったりして」
「――別にいいよ。わたしも悪かったんだから」
彼の肌に指を這わせながら、胸元に顔を押し当てる。
喧嘩のきっかけは、些細なことでの言い争いからだった。そこから、言わなくてもいいことを言い出し始めたからヒートアップしていき、二時間近くかかってお互い納得して和解をした。それに気が弛んだのか、耐えていた感情が溢れ出して涙が止まらなかった。
泣くのは反則だと思ったが、どうにも止まらない涙に自分でも悔しくて、また泣いた。彼はそんなわたしをそっと抱きしめて、何度も背中をさすってくれた。
それがついさっきまでの出来事だ。
それにしても、だ。
「喧嘩の後、必ずエッチしてる気がする」
「そうだな」
「どうしてでしょうかね」
今回も例の如くいたしてしまった。背中をさすってくれていた彼の手が、当たり前のごとく背中から脇腹、お尻、胸となで回し始めたからだ。
抵抗しようにも、彼に抱きすくめられているし、何より自分からキスを求めていたから言わずもがなそんな流れになってしまった。
正直、身体がダルい。
「そりゃああれだよ」
「あれですか」
「そう、あれ」
「だから何」
「だから、お互いのあいた溝を埋めるのに、身体でその隙間を埋めるんだよ」
自慢げに話す彼を見てため息をついた。
「――上手いこと言った思ってるでしょ」
「上手くなかった?」
「そんなに上手くないから」
「まじか」
頭上から聞こえる彼の声は今にも眠りに落ちそうなトロリとした声で、わたしはその声に耳を傾けつつ目を閉じる。そしてぎゅっと身体を密着させた。
たしかに、喧嘩のあとは彼の全てが恋しくなる。今、この瞬間、わたしは満たされたこの想いに微笑み、彼の胸に頬摺りをする。
「今日ぐらいは腕枕で寝たいな」
「いつもしてやってるじゃん」
わたしはずるずると身体を動かし、頭を彼の腕に乗せる。ちらりと顔を伺うと、彼もわたしを見ていて視線がぶつかった。
「目、赤いね」
「泣いてましたし」
彼はわたしの目元を指で拭い、頭を撫で、前髪を払うとおでこにそっとキスをした。
「おやすみ」
「おやすみなさい」
いつもと変わらない夜だけど、いつもより彼のぬくもりに触れて眠る夜となる。
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