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 紅茶を飲みながら、自然な流れで切り出してみた。

「ちー、今日どうしたの?」
「なにが?」

 ちーは最後の一切れを頬張りながら首を傾げる。自分でも無意識だったのか、それともホットケーキを食べているうちに忘れたのか。どちらもありえそうだから怖い。

「なにがじゃなくて。今日ずっとピッタリくっ付いてたじゃん。金魚のフンみたいに」
「あ、あれですか。んー……」

 急にしおらしくなったちーは、視線を落としもじもじとし始めた。

「どうしたのさ?」
「えっと……」

 ちーは言い淀むと、徐に席を立ち俺の手を引いてソファーに座らせた。お互い向かい合わせで見つめ合い、なぜかちーはソファーの上で正座をする。

「……あの」
「なんでしょう?」

 こんなにしょんぼりとするちーを今まで見たことがなくて、俺は驚きながらも次の言葉を待つことにした。

「今日、バレンタインじゃん?」
「そうだね、バレンタイ、…………え?」
「だから、バレンタインなの、今日」

 反射的にリビングを見まわしカレンダーで日にちを確認すると、今日は日曜日、十四日。

「……ホントだ、忘れてた」

 ちーに言われるまで忘れてましたよ。というか、今知りました。

「あたしも、今日アキの顔見るまで忘れてました……」

 ちーは呟き、小さな身体はより小さくなる。
 その姿を見て、俺はやっと理解した。そんなちーがかわいくて、自然と頬が緩む。

「チョコがないこと、気にしてたの?」

 俺の言葉にコクリと頷き、「ごめんね」と呟いた。やっぱり今までの行動は、このことを気にしてのことだったらしい。

「気にしなくていいのに」
「します!」

 キッと睨んでも、またしょんぼりと肩を落とす。ふわりと揺れる髪と、そこから見えたうなじから目が離せなかった。

「チョコはさ、後で買いに行けばいいだけだし。ね? チョコよりもさ」

 ちーの両頬を挟み、ぐいっと顔を上げさせた。そして唇にちゅっと口付けてにっこりと笑う。ちーの唇にははちみつが付いていて、この上なく甘かった。

「チョコよりもちーのキスとぬくもりがいいな」

 もう一度キスをして、ちーを抱きしめる。この感触と温かさに癒される。
 ちーは腕の中で顔を赤くしてしどろもどろするものの、腕を払うわけでもなくただギュッと服を掴んでいた。

「お皿とか片付けてないよ」
「あとでいいよ」
「……チョコ、買いに行きたいな」
「また今度でいいから」
「………まだ、明るい、よ?」
「気付いたら暗くなってるし」
「………おばちゃん達帰ってくるよ?」
「大丈夫。空気読んでくれるさ」
「ばかあ……」

 頬を赤くして俺を見つめる瞳は少し潤んでいて、青少年には十分すぎるキッカケになったのは言うまでもない。

「夕方には起き上がれるといいね?」
「疑問系にしないでくださいっ!」

 今日のキスは、チョコよりも甘いハチミツの味。


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