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「アーキー」
「なんでしょう?」

 振り返ろうとした丁度のタイミングで、ちーは後ろからガシリと抱きついてきた。何事かと首を捻ったまま見下ろしていると、背中に埋めていた顔を上げてフワリと笑った。

 ――珍しいこともあるものだ。

「どうしたの、いきなり」
「んーなんとなく」

 さすりさすりと背中に頬ずりをしながら、未だ離れようとはしない。

「ちー、危ないから離れて」

 身体を揺らしてもぴたりとくっつき続ける。
 ふうと息を吐き、自分の臍辺りに回った小さな手を左手で握り締めた。指で手の甲を撫でるように触り、残った右手でフライパンを返す。我ながら自分の器用さに拍手を贈りたい。
 それにしてもだ。今日のちーは珍しいというより、どこかが変だ。

「どうしたのほんとに」

 ちー? と声をかけても返事もしないでただへばりつくばかり。
 今日は自分以外みんな出掛けているため、家には誰もいない。珍しく家で過ごそうというちーの提案により今に至る。
 ちーのリクエストで今日の昼ご飯になったホットケーキ。フライパンから香る甘い匂いが漂い始める。

「ちー、もう出来たからいい加減離れて。お皿お皿」

 フライ返しでちょいちょいと食器棚を差し、皿を取ってくるように促した。ちーは上目遣いでちらりと見たあと、少し名残惜しそうにするりと腕を解いた。

 今日のちーはどこかおかしい。今日は女の子の日? でもそれは先週だったし。

 首を捻り考えを巡らすがわからないので、とりあえず渡された二枚の皿を手に取り、ふっくらと焼き上がった二人分のホットケーキを乗せた。
 テーブルにはマーガリンやマーマレードやジャムやハチミツが置かれており、そしてそこには既に椅子に座って待つちーの姿があった。

「お待たせしました」
「待ってました」

 ちーの前に皿を置くと、嬉しそうに笑い手を合わせた。向かいの椅子に腰を下ろし、ちーと見つめ合う。

「いただきます」
「いただきます」

 思い思いにトッピングをしてホットケーキを頬張る。自分で言うけど、やっぱり俺が作るホットケーキはおいしいと思う。このふっくら感は、母親や姉でもできないだろうな。

「おいしい」

 ちーはハチミツをたっぷりとかけたホットケーキを頬張りふわりと笑う。その笑顔を眺めながら、二枚目のホットケーキに手を伸ばした。
 他愛もない話をしながらゆったり過ごす午後のひと時。
 ホットケーキを食べ出し始めてから、ちーはいつもの感じに戻った。だけど、やっぱり今日のちーはおかしい。俺は頃合いを見計らい、ちーに訊ねることにした。


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