3

「きっと高級チョコの一つや二つあるはずとか、今日は何個食べようかとか、目をきらきらさせてましたよ」
「――俺が持って帰らないっていう考えは」
「ないですねえ」

 頑張って下さい、とミハルさんは爽やかな笑顔を向ける。そして小走りに社屋へと戻っていった。その後ろ姿を見送り、まだ半分と残る煙草を揉み消した。
 さすがにあの量を一度に持ち帰る気力はない。何回かに分けて持ち帰るにしても、あのチョコレートを仕分けする気がおきない。ため息ばかりが漏れる中、俺はふと思ってしまった。

「あいつ、ちゃんと用意してるだろうな……」

 俺からのチョコを当てにし過ぎて、忘れるなんてことはないだろうが――。そうしたら身体で払って貰えばいいだけのことだ。いっそのこと、忘れてくれた方がいいかもしれない。
 ――まあ、チョコレートを持ってこようが忘れようが、結局のところ変わりはないんだが。

「明日は土曜だし、構わないだろ」

 今日のキスはこの上なく甘いだろう。口に広がるチョコレートの甘さと、雫の溶けた表情を思い浮かべた。
 少し雪がちらつきだした空を見上げ、そして気付く。とりあえず今は、会社から避難することが大事だ。社内の窓からこちらを見る視線を感じるが、敢えて気づかない振りをした。

 甘く愛おしい時間まで、もうしばらく戦いは続く。


[*]prev next[#]
index[0]
「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -