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「きっと高級チョコの一つや二つあるはずとか、今日は何個食べようかとか、目をきらきらさせてましたよ」
「――俺が持って帰らないっていう考えは」
「ないですねえ」
頑張って下さい、とミハルさんは爽やかな笑顔を向ける。そして小走りに社屋へと戻っていった。その後ろ姿を見送り、まだ半分と残る煙草を揉み消した。
さすがにあの量を一度に持ち帰る気力はない。何回かに分けて持ち帰るにしても、あのチョコレートを仕分けする気がおきない。ため息ばかりが漏れる中、俺はふと思ってしまった。
「あいつ、ちゃんと用意してるだろうな……」
俺からのチョコを当てにし過ぎて、忘れるなんてことはないだろうが――。そうしたら身体で払って貰えばいいだけのことだ。いっそのこと、忘れてくれた方がいいかもしれない。
――まあ、チョコレートを持ってこようが忘れようが、結局のところ変わりはないんだが。
「明日は土曜だし、構わないだろ」
今日のキスはこの上なく甘いだろう。口に広がるチョコレートの甘さと、雫の溶けた表情を思い浮かべた。
少し雪がちらつきだした空を見上げ、そして気付く。とりあえず今は、会社から避難することが大事だ。社内の窓からこちらを見る視線を感じるが、敢えて気づかない振りをした。
甘く愛おしい時間まで、もうしばらく戦いは続く。
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