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 ありがたいことに、今回は猛々しい女性たちからの攻勢はなく、難なく喫煙所へと辿り着いた。
 二月の寒空の下には俺のような喫煙者の影はなく、一人ゆったりと煙草に火を点けて煙を吐き出す。漂う煙みたいに、俺も姿をくらますかな。
 社内にいるよりは外に出て客の所で時間を潰していた方が幾分気が楽だし。今日の訪問予定はないが、顔だし程度に寄ってみようと、いくつかの客を頭の中でリストアップする。

「あら、真崎主任じゃないですか」
「これはこれはミハルさん、お疲れ様」
「お疲れ様です」

 お互いに満面の営業スマイルで挨拶を交わし目を細める。
 この光景を他の人間が見たら仲睦まじいように見えるだろが、おそらくお互いともそんなことは微塵も思っていないだろう。似た者同士が顔を合わせれば、胡散臭い挨拶で始まり、会話すればただの化かし合いの攻防になる。
 まあ、それが楽しかったりするんだが。
 ミハルさんも同じようで、たまに喫煙所で顔を合わせるとある程度の距離を取って佇んでいる。この寒さの中煙草を吸いに来るミハルさんもまた、希有な人に入るだろう。

「今年はどうです? 相変わらず机はチョコの山なんじゃないんですか?」「ありがたいことに今日はもう仕事する気は起きないな」
「よかったじゃないですか、もう帰れて」

 うらやましい限りです、と笑って俺を見ていた。その目はこの状況を楽しんでいるのがありありと見えて、俺は小さく息を吐いた。

「毎年恒例行事なんですし、いいじゃないですか、楽しめば」
「俺の机の周り見たら、そんなこと言えなくなるぞ」
「大丈夫です、見る予定ないですもん」
「じゃあこのまま営業部まで引っ張っていくかな」
「――今の主任ならやりかねないですね」
「あの量見たらミハルさんでも引くと思うよ」
「モテる男の人は大変ですね」

 さすがに俺の疲労感が伝わったのか、ご愁傷様です、と苦笑しながら煙草を揉み消した。

「雫は楽しみにしてましたよ」
「――何を」
「主任がチョコを大量に持って帰ってくるのをですよ」

 ミハルさんは自販機で缶コーヒーを買い、両手で転がして頬に当てる。どこかおどけて笑うのは、雫の姿を思い浮かべているからだろう。


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