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「――なにさ」

 彼女は男の嬉々とした視線に気づき、嫌々そうに呟く。

「いや、そうしてると女の子には見えると思って」
「だから女子高生だって言ってるだろ」
「それはそれは」

 この男は人をおちょくることに関して天下一だろう。彼女は喉まで出かかった言葉をぐっと堪える。この類の人間は、反応するとそれを喜びにして楽しむ人種だ。

「兄ちゃんS属性だよね」
「そういう嬢ちゃんはM属性だろうな」

 彼女は少しでも張り合おうと男を睨むも、それさえも無駄だと気づき視線を逸らす。
 そして身体が冷えて強張らないようストレッチをし、家までのルートを考える。

「なあ嬢ちゃん」
「何、まだ何かあるの」

 素っ気ない返事にも、男は気にする素振りを見せない。

「そこまでやる必要性はなんだ」

 彼女はストレッチを止めて、くるりと男に向き直った。彼女の瞳はどこか冷ややかで、憂いを帯びていた。

「……勝ちたいヤツがいるんだよ」
「勝算はあるのか」

 無言を決め込む彼女の姿を見て、男も何を言うことはなかった。しばらく続くかと思われた沈黙を破ったのは彼女自身からだった。

「わかってはいるんだよ。どんな鍛えて技術を身に付けても、男女の体格差だけはどうやっても埋まらない」

 男は何も答えず、ただじっと彼女を見つめていた。彼女の目は遠く、違う何かを見ているかのようだった。そして自嘲気味に笑う。

「まあ、だから今のコレは趣味ってやつかな」

 スッと構えての左から放つジャブと右フック、軽快なフットワークはそれなりに練習を積んできた者の身のこなしである。
 彼女はぴたりと動きを止め、ダラリ腕を下げて力を抜き、男を見据えた。

「それにこうやって走ってると、たまあに面白いものを拾うからさ」

 彼女が纏っていた悲壮感は消えていた。そしてゆっくりと男に近づき、下から見上げてニヤリと笑う。

「まあ拾ったのはストーカーだけどな」
「――俺は犯罪者か」
「だってそうだろ。ほぼ毎日あたしに引っ付いてるんだから。……兄ちゃん本当にプーだろ?」
「だから違うっつてんだろ、そんな憐れんだ目を向けんな」

 男は彼女の頭をはたこうとするが、それをスルリとかわし、また一定の距離を保つ。
 男は呆れたように息を吐き、「好きに思ってろ」と呟く姿を見て彼女は声を上げて笑った。


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