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 規則正しい息遣いと、地面を蹴る靴音が夜の公園に響き渡る。それは一人分ではなく二人分のものである。
 はっはっと白い息を吐き、パーカーを目深くかぶる小さなシルエットと、こちらも同じような恰好だが格段に大きな身体のシルエットが、肌を切り裂くような冷たい風に真正面から突き進む。

「……もういい加減付いてくるな」

 無言で走っていた小さな影は立ち止まると、何度か深呼吸を繰り返し、我慢の限界と言わんばかりに口を開く。

「何で毎日毎日同じコース走ってるの、時間だってそうだ」
「かぶることだってあるだろうに」

 小さな影は苛立ち詰め寄るも、相手はその勢いを飄々とかわす。宥めるように諭すような物腰に、小さな影は一瞬にして気配を変える。大きな影は張り詰めた空気を気にすることもせずストレッチを始める。

「何がかぶるだ! 敢えてあたしがコースも時間も変えてるのに、どうして兄ちゃんもいるんだよ」
「嬢ちゃんのセンスのなさが招いた結果じゃないのか?」

 ドスンと、嬢ちゃんと呼ばれた小さな影が右ストレートを、兄ちゃんと呼ばれた大きな影に撃ち込んだ打撃音が響く。それを拳で受け止め、ニヤリと笑う。

「ほんとイイパンチ打つな」
「……当たんなきゃ意味ないんだよ」

 スッと拳を引いて、彼女は諦めたように息を吐き気を緩めた。

「そのうち『ストーカーだ』って言って警察に突き出すから」
「わかったわかった」

 彼女は目を細め、おそらくわかっていないだろう男の背中を見つめながら、何も言わずに走り続けた。


 あれからもしばらく併走し、いつもの公園で休憩を取る。二月の風は火照る身体に心地よいが、一気に身体も冷えていく。呼吸を整えながら男の方に視線を向けると、息も乱さず自分のペースについてくる。
 ミネラルウォーターを一気に飲み干し、パーカーのフードを外す。首に巻いたタオルで頭を乱暴にぬぐうと、長く柔らかそうな髪が風に流れて揺れる。


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