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校内にチャイムが鳴り響き、ガヤガヤと騒ぎ始める昼休み。わたしはいつものように窓際に陣取り、いつものメンバーでお弁当を食べる。
窓から入る陽射しは暖かく、春を感じさせてくれる。
「ねえ塁さん?」
ぱくりとウインナーを頬張り、友人の方を向く。ニヤニヤと笑う友人の顔を見て、小さく息を吐く。大体言いたいことはわかるんだけれど。
「なんでしょう?」
「あのよく来る後輩の子、あの子にチョコあげないの?」
「……織花、すっごいいやらしい顔してる」
向かいに座る織花は心外だとばかりに息を吐き、ふてぶてしく背もたれに寄りかかる。
「失礼な。こんな美人なかなかいないってのに」
確かに、女のわたしから見ても織花は美人だと思う。スラッと伸びた手足に細身の身体に、切れ長で色素の薄いオレンジ色にも見える瞳。
そう、見た目はとても美人なんだけど――。
「織花の場合喋らなければの話だけどね」
見た目とは裏腹に話すと言葉遣いも荒く、スカートでも足を広げて座るという男勝りな性格なのだ。今も、背もたれに寄りかかりながら、胡坐をかくように右足を曲げて座っている。
――スカート中見えてしまいますよ、織花さん。
「あたしのことは放っておいてよ、それよりも塁だって」
ふんぞり返りながらわたしを指差す。ほら、指だって細くて長いのに、どこか勇ましく感じてしまう。
「まあね。で、塁はあげるの?」
「あの子可愛いしさ、あげちゃえば?」
「今年バレンタイン日曜だし、きっと今日貰えると思ってるって」
織花以外の友人たちも、いつの間にか話題に便乗してわたしに身を寄せてくる。みんなのキラキラとした――いや、好奇心の固まりをした目を向けられても困る。
「わたしのことも放って置いて欲しいんだけど」
ご馳走様でした、と手を合わせてお弁当の蓋を閉じた。それをカバンにしまい込み、大きく伸びをした。そして机の上には、お弁当から取って替わったお菓子たちが転がっていて、そのうちの一つを頬張る。
「あの子この前も来て、『先輩、バレンタイン楽しみにしてます!』て子犬みたいに尻尾振ってたじゃん」
「あんなカワイイ子に好かれていいなあ」
皆思い思いに意見を述べ、そしてわたしの回答を待つ。わたしは友人たちの視線を一心に浴び、大きくため息をついた。
「……持ってきてるよ」
「やっぱり!」
「エラいぞ、塁!」
一斉に拍手を贈られ正直戸惑う。わたしにとって、このチョコは友人としてあげるものだから。何より、あの子はわたしと違うところにいる人種だと思う。そう、対極の位置にいるような、そんな雰囲気を持つ。
「あ、あの子チョコ貰ってる」
友人の一人がグラウンドにいた尊を見つけ、女の子からチョコを貰っているところを見つけた。周りから囃したてられている尊は、友達たちを制しながら恥ずかしそうにチョコを手にしていた。
「モテるね」
「そうね」
わたしは別段興味がないように呟いて、マシマロを口に頬り込んだ。鞄の中にあるチョコがコトリと揺れた気がした。
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