あけおめSS
2012/01/01 18:10

「東雲《しののめ》、神社に行こう!」
「いいけど、その格好は?」

 インターホンを鳴らせばすぐに玄関を開け放った東雲唯弦《しののめゆづる》は、その目を丸くさせながらじっとオレを眺めている。

「なにって、実紗《みさ》と母さんに着付けてもらった」

 本当は妹である実紗が着る予定だったけど、直前にめんどうと投げたのだ。母さんは呆れながら、「もったいないから、祥太《しょうた》が着てよ」とオレに話を振ってきた。そりゃ普段から女装はしてるけど、決して趣味ではない。それは目前のコイツが「普段から女装してね」と言ったからだ。惚れた弱味で承諾したが、その時はしない方がよかったかなと思った。着物は合わないだろ、さすがに。

「そっか。祥夏《しょうか》ちゃんはいつも可愛いね」

 オレこと小宮山祥太《こみやましょうた》は、女装時は小宮祥夏《こみやしょうか》と名乗っている。それはまぁ、実紗の兄だとバレないようにだ。コイツに振られた実紗の為に、ぎゃふんと言わせてやろうと女装して近づいたのだ。それも全部東雲に仕組まれていたんだけど。

「ちょっと待ってて」

 玄関先に通され、奥に消えた東雲は、数分で戻ってきた。マフラーを首に巻き、ダウンジャケットを着て。

「祥夏ちゃんは大丈夫? 寒くない?」
「うん」
「なら、行こうか」

 差し出された手を握れば、東雲はオレにキスをしてくる。

「なにすんだよ」
「もうすぐ日付変わるから?」
「意味解んねぇ」
「だから、今年最後のキスかな」
「よくそんなこと言えるよな。恥ずかしくないのか?」

 東雲は聞いてるこっちが恥ずかしくなるようなことをさらりと言う。ある意味才能があるな。

「ないよ」
「あっそ」
「耳、赤いね。やっぱり寒い?」
「東雲が変なことするからだろ」

 耳朶をなぞる東雲の手は温かい。東雲は笑いながら言い放つ。

「変なことって、僕は変なことをした覚えはないけど」
「うるさいな。変なことは変なことなんだよっ」

 羞恥を誤魔化すように腕を引けば、東雲は「はいはい」と歩き始めた。なんかムカつくな。
 数分歩いたところにある町内の神社には、かなりの人が集まっていた。当たり前だけど。

「混んでるね」

 列に並べば、東雲はそう吐き出した。コイツなに言ってんだ。

「そりゃそうだろ」
「祥夏ちゃんは小さいから、流されちゃうかもね」
「ふざけんなよ。165はあるわ!」
「そうだっけ?」
「そうですよー」

 自分がデカイからって余裕こいてんな。見てろ! 来年は成長期で伸びるからな!
 財布から100円を出して握りしめる。いやここは500円にした方がよかったか? でも500円はデカイんだよな。オレからすれば、だけど。手に持つ財布を見つめていれば、腰に腕が回される。

「うぇっ!?」
「危ないよ」

 思わず辺りを見渡せば、横から東雲の声が振ってきた。東雲が言うには、帰る人にぶつかりかけたらしい。財布とにらめっこをして衝突なんて、そんな笑い話はされたくはない。

「あ、ありがとう」
「どういたしまして」

 オレの頭を撫でた東雲は、笑いながら答える。と同時に、「もうすぐだよ」と教えてくれた。見れば解るけど。
 500円は大きいという結論を出してから財布をしまう。今回も100円で!

「東雲は」
「なに?」
「どんな願い事するんだ?」
「あとでね」

 もう一度頭を撫でられれば、番がくる。急いで100円を投げて拍手をし、願い事を念じる。もちろん背が伸びますようにと。三回も念じたからご利益あるかな。

「よし!」

 軽やかに踵を返せば、腕が伸びてくる。背後から誰かの胸に飛び込む形になった。誰かっていうか、東雲しかいないんだけども。

「はしゃいだら、転けるよ?」
「はしゃいでないし」
「そう。用は済んだから帰ろうか?」
「おー」

 今度は逆に、東雲に手を引かれる。やっぱり温かい。
 帰路に着く中、東雲は思い出したように言った。

「そうだ。僕の願い事はね」
「うん?」

 ――そういえば、そんな話をしていたような。そういや、願い事って人に言ったらダメじゃね?

「いや、やっぱりいいや」
「どうしたの?」

 思い直して緩く首を振ったオレに、東雲は軽く首を傾げる。

「願い事、人に言ったら効力なくなるだろ?」
「そう言われてはいるけど、僕の願いは祥夏ちゃんがいないと始まらないし」
「エロイことかよ!?」
「それもあるかな。来年っていうか、年が明けたから今年もかな。ずっと祥夏ちゃんと一緒にいられますようにって、願ったから」
「お前、恥ずかしい奴だな」

 やっぱり東雲はすごい。こんな台詞がぽんと出るなんて。

「祥夏ちゃん、顔赤い」
「――東雲が悪いんだからな」

 東雲はくすくす笑いながら、空いた手でオレの頭を撫でた。

「本当に可愛いね」
「眼科行けよ」
「祥夏ちゃん」

 滑り落ちた手が頬を撫でて唇に触れる。

「今年もよろしくね」

 キスをした後に満足げに微笑み、また頭を撫でてくる。

「しょうがないから、よろしくしてやるよ」

 それでいいなら、今年も一緒にいてやろう。東雲はきっと全部解ってるんだろうけど。だって東雲だしな。



end.
12/1/1

――――――

本年が皆様にとってよい年でありますように!

Category:偽り彼女は甘い罠



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