R18
拍手文の「メフィ→藤+シュラA」直後のお話






性急な足取りで向かうのは、メフィストの寝室か。
シュラと別れた瞬間、腕を力強く引っ張られてしまい、半ば引きずられるように連行されている。
振り解こうにも、びくともしない。獅郎は声を張り上げた。

「おい、離せ」
「嫌だ」

いつになく鋭利な声色に、二の句がつげなくなる。
従うままについて行けば、案の定、メフィストの寝室前に着いた。
誘われるままに部屋に入る。獅郎は怖ず怖ずと振り返った。

「……なぁ、メフィスト」

何で黙ったままなんだよ、と。
そう続けたかった言葉は、強引に口付けられたことにより、紡がれることはなかった。

「っ!んぅ……っ」

呼吸を奪われ、覆い被さられる。
足元が揺らいだ瞬間、豪奢なベッドに押し倒された。

「ふ――ぅ……っ」

弾力ある舌が口内へ潜り込んでくる。舌を搦め捕られ、互いの唾液が撹乱される。
もがいていた腕が、縋り付くものへ変わった頃。
漸く唇が離され、名残惜しげにそれを舐められた。

「っ……はぁ、げほっ…」

ぼんやりと見上げると、何とも言えない表情をした悪魔と鉢合わせた。

「メフィスト……?」
「私の愛は、重いですか」

綺麗な眉がキュッと寄せられ、澄んだ翠の瞳が、不安げに揺らぐ。
獅郎は思わず吹き出した。

「………ちょっと、獅郎。何笑ってんですか」
「わっ、わりぃ……
お前が、らしくねぇ面するから」

メフィストは罰の悪そうに、獅郎に擦り寄り抱きしめた。

「だって、貴方が」
「ん、そうだな…悪かったよ」

この悪魔は、本当は臆病で、とても淋しがり屋だ。
だから、少しのことでも、不安になる。
人の子が、自分に愛想を尽かしてしまうのではないか――と。

(普段はおくびにも出さねぇで、好き勝手にするくせになぁ…)

思わず苦笑を漏らせば、更にぎゅぅっと抱きしめられる。
ちょっと苦しい。だが、これでも随分、力を抑えているのだろう。
簡単に人を壊せる力を持つ彼は、しかし自分に触れるときだけは、とても慎重になることを知っている。
あやすように背中を撫でると、吐息に似た声が、耳朶に吹き込まれた。


「ごめんなさい――でも、やめられない」


――持て余すこの気持ちを、何と呼ぶのだろう。
愛情というには妄執じみていて、狂気というには純粋すぎて。
永い時間を生きているくせに、この感情をどう処理すればいいのか、解らないでいる。
ただ、目の前の人の子を好いようにしたい、離したくない――愛おしみたい。
長いようで短い沈黙が、二人の間に降り懸かる。
それを破ったのは、人の方だった。


「―――……やめんなよ。嫌じゃ、ない」


メフィストは目を見開き、がばりと起き上がる。
じぃっと見つめると、眼鏡奥の瞳が柔らかく細められた。

「なりふり構わずやってみろよ。嫌いには、ならねぇし」



なるべく応えていけるようにする。
でも、あんまりぶっ飛び過ぎたら逃げるからな。



「――――はぁ………これ以上、溺れさせないでくださいよ……」


深い溜息を吐いて、獅郎の首筋に顔を埋める。
獅郎は可笑しそうに肩を揺らし、妖しく笑った。

「もっと溺れてみろよ?じゃねぇと、さっさと逃げちまうぞ」
「……いっちょ前に私を煽ってんですか」

じと目で見据えてくる瞳に、激しい情欲が燃える。
獅郎は悠然と笑みを深めた。

「さぁ?好きに解釈しろよ、俺の悪魔」

誘うようにその首に腕を回せば、悪魔の唇が、ニィッと吊り上がった。


「………その余裕、剥いでやるよ」







「くっ……うあ……っ」

きつく唇を噛み、悦楽に誘う揺さぶりに耐える。
こっちから仕掛けるんじゃなかった――滅多なことをするもんじゃない。
お陰でメフィストの箍を外すはめになり、あられもない状態になっている。
明日も早いのになぁ――思考を飛ばしていると、不機嫌な翠の双眸とかち合った。

「……まだよそ見する余裕があるんですね?」
「なっ、んむっ――……!」

呼吸を奪うように口付けられた瞬間、貫かれている秘部を、更に深く穿たれた。

「ひ、ぁ、てめっ……うぅんっ………」

批難とも嬌声ともとれる啼声は、再び悪魔の唇に阻まれる。
上からも下からもいやらしい音に責められて、耳を塞ぎたくなる――頭が、おかしくなりそうだ。

「ふっ―――……」

酸欠と快楽に、意識がくらくらする。
もう無理だ――そう思った矢先に、ゆっくりと上の口が解放された。

「はぁ……っ、かげんをしれっ……!」
「……お前相手に加減が出来る訳ないだろ…」

素の口調に戻ったメフィストは、これでもかと腰を密着させ、胎に埋める己の存在を主張させてくる。
真っ直ぐにこちらを見据えてくる翠の瞳が問い掛ける―――お前は、誰のものだ、と。

「っ……メフィストっ…」

堪らず名を呼べば、悪魔の瞳が喜悦に歪んだ。

「――もっとよがれよ」
「えっ、やっやめっ……あぁあっ」

これでもか、といわんばかりに、両足を押し拡げられ、抱え込まれた瞬間。
とち狂ったかのように激しく腰を打ち付けてきて、荒々しく挿入・抽出を始めてきた。

「ひ…ぃや、あっ……メ、メフィ……っ」

抑えようのない喘ぎ声が、噛み締める唇から漏れ出す。
それまで堪えてきた生理的な涙が、じわっと滲み出してきて――もうこうなってしまえば、後はこの悪魔に、好いように踊らされるだけだ。

「はっ……お前のその顔、堪らない……」

眦から流れる涙は、メフィストの熱い舌に舐め取られる。
悪魔が与える快楽は、人の身には過ぎた劇薬となる。
ともすれば失神しかねない奔流に呑まれながら、獅郎は、遠退きかける視界の中、メフィストを見つめる。
そこには余裕綽々彼はなく、酷く雄臭い笑いを浮かべる悪魔がいた。


「―――もっと泣いて啼いて、溺れてしまえばいい」



お前も、私に溺れてしまえば良いんだ―――



意識が途切れそうな中、その言葉がやけに鮮明に残って。



それから後の記憶は、覚えていない。







「………メフィ、スト」
「はい、何でしょう」
「おま、え……マジで、加減を、しれっ…」
「だから、貴方相手じゃ無理って言ったじゃないですか」
「っ、だからって意識飛ばした後もヤるなっ…!」
「起こしてあげた、の、間違いですよ。
いやはや、その後の貴方の乱れっぷりといったら…」
「やめろ思い出したくもねぇ…!!」


――あの後の自分の有り様を思い出したのか、獅郎は勢いよく布団に突っ伏す。
メフィストはくつくつと肩を揺らして笑っている。もうすでに、いつもの余裕綽々な彼に戻っていた。


――お前も私に溺れてしまえば良い。


あの時の言葉が、脳裏に過ぎる。
獅郎はジッとメフィストを見据え、ぽつりと呟いた。


「――俺だって、お前に溺れているよ」
「っ!!………好きですよ」
「知ってる」


人の子が無邪気に笑えば、悪魔は不器用な笑みを浮かべて。
そうしてどちらからともなく、口付けを交わした。






Depth


(深みに嵌る、溺れて行く)
(そうやってまた、愛し方を覚えていくの)





…………


親愛なる來麗様に捧げます。
遅くなってしまい、ほんっとうに、申し訳ありません…!!(土下座)
「拍手お礼文Aの後の二人をEROありで」とのリクエストでしたが、肝心のEROが中途半端で、もうすみません…穴があったらジャンピングで入りたいです……
蛇足ではございますが、その後暫くの期間を置いた後、ひと悶着あり、拍手お礼文Bへと続きます。
少しでもお気に召されたら幸いでございます。あとはもう、煮るなり焼くなりお好きにしてくださいませ!
改めて、これからも仲良くしてやってくださいましたら幸いです(*^^*)
この度のリクエスト、真にありがとうございました!!



11.09.30




(6/6)
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