『Addicted to you』続編。
※R18






ふわり



空気が、動く。
別の者がこの部屋に入ってきた気配が、伝わる。


「――……」


書き物をしていた手を止め、獅郎は息を吐く。
振り返らずとも解る、慣れ親しんだ気配。
夜も更けたこの時間に部屋に訪れる者は、一人しかいない。


「ご機嫌よう、獅郎。今宵も月が美しい」
「………メフィスト」


ゆっくりと振り返れば、月を背景に、窓際に佇む長身の悪魔。
麗美に微笑む姿は、紳士たる彼の品格を際立たせている。
しかし、飢えた光を隠しもしない悪魔の双眼は――怖いくらいに欲に塗れていた。


「さぁて…敬愛なる貴方の言い付けを健気に守ったのです。
今晩は、貴方を好きにしても宜しいですよね?」



もう我慢の限界ですから。



言って、苦笑する悪魔を見て、静かに目を伏せる。
昼の戯れでは飽き足らないことは、重々承知しているつもりだ。
そもそも、気位の高いこの悪魔が、一介の人間にすぎない自分の為に、欲求を抑え込んでいた。
元来悪魔が、契約を交わしていない人間の言葉など聞くわけがない。



だと言うのに、彼は



「―――物好きな悪魔だな、本当に…」
「貴方こそ、充分物好きですよ」


確かに、神父に愛を囁く悪魔も、そんな悪魔を受け入れる神父も、充分おかしいか。
くすりと笑えば、そっと頬を包み込まれ、面を上げる。
目の前には、真摯で欲情に塗れた、美しい碧の瞳。その中に、紅い瞳が反映される。
二人は吸い込まれるように、唇を重ねた。


「っ――……昼間はあのまま、抱かれるかと思った」


すぐに離れた唇は、しかしねだるように、何度も何度も唇を啄んできて、擽ったい。


「んっ――抱いても、良かったんですがね。
でも、お預けを食らった分の落し前を、夜でじっくりつけていただこうかと思いまして」


そうして深く、唇に吸い付かれる。
反射的に身を引こうともがくが、グッと頭と腰を引き寄せられ、結果、更に口づけが深まった。


「んう………っ」
「はぁ……獅郎……」


足りない、足りない――そう、訴えかけるような口づけに、応えてやりたくなる。
裏表を持ち合わせ、猜疑と欺瞞を嘯くメフィストだが――自分に向ける想いと言葉だけは、いつだって偽りなどない。
メフィストの冷たい手が、ワイシャツの中に侵入してくる。
驚いてメフィストを押し返そうとすれば、素肌を弄られ、机上に押し倒された。


「ちょっ、待て、メフィ……っ」


制止の声は、覆い被さる悪魔の唇の中へと消えてゆく。
そこにいるのは、いつもの慇懃無礼な彼ではない。燻る情欲を解放し、己の欲望を満たさんとする――美しくも淫らな悪魔が、そこにいた。


「―――待て?
気が狂うくらいに、こっちは待ったんだ。今更、お前の言葉を聞き入れるとでも?」


傍に居るのに、立場上、触れることを中々赦されない。
プラトニックな関係で満足できるほど、この人の子に、綺麗な愛情を抱いてはいない。
常日頃、これを好いように飼い殺してやりたい、と――獰猛で凶悪な欲求を、腹に飼っているのだから。



パチンッ



指を鳴らす音が響いた瞬間、ぐにゃりと空間が歪んだ気がした。


「お前…何した…?」
「……ああ、少しばかり、此処の空間の時間の流れを遅くしたんです。
ついでに外界からも切り離しましたから、邪魔者も来ません」


いっそ綺麗な笑みを浮かべてくるメフィストに、獅郎の頬が引き攣った。
――メフィストが、完璧に悪魔の顔に戻った。
己の欲求が満たされるまで、此処から解放しないつもりだ。


「メフィストっ…」


半ば嘆願に近い呼び掛けに、メフィストはいやらしく、口角を吊り上げた。



「―――最後まで付き合えよ」



そうして獅郎の服に、手を掛けた。






…………………






―――何時間、経ったのだろう?
もしかしたら、外界ではまだそんなに経っていないかもしれない。
朦朧とする意識の中で把握できるのは、激しい快楽と揺さぶりと、痛いくらいの温もりだけ。


よくもまぁ、この身体に飽きないもんだ。


若い頃ならいざしらず、傷だらけで老いてきているというのに――それでもメフィストは、自分がいいと言う。
悪魔の愛情は一途だと宣っていたが、あながち間違いではないかもしれない。
だってその分、この悪魔は嫉妬深いのだ。
普段は分厚い仮面を被って本心を見せないが、二人きりになれば、その仮面をかなぐり捨てる。
そして、強く強く束縛し、独占せんとする――今の、ように。


「―――何を考えているんです。今お前を抱いているのは、私ですよ」
「うあぁ……っ」


背中に思い切り噛み付かれ、手加減なく突き上げられる。
すっかり自由を放棄した身体が飛びはね、くわえさせられた熱を、ぎゅっと締め付けてしまう。
お陰で、更に快楽が強くなり、堪えるようきつく目を閉じ、シーツを噛み締めた。


「っ……随分とよがる――もっと激しくしてやりましょうか?」
「ひっ……ぁ…っざけん、な……!」


これ以上荒々しく容赦なくされると、身がもたない。
ただでさえ箍を外したメフィストは、手加減してくれない。
こちらが、もう無理だと懇願しても、嘲嗤いながら一蹴する――実に悪魔らしい傲慢さと貪欲さで、自分を犯し抜いてくる。


ぐちゅり


聴覚を犯す卑猥な水音が下半身から響いて、否応なく羞恥心が刺激される。
弱々しく身を捩る、ほくそ笑む気配。
厭な予感がした瞬間、がっちりと下半身を抱え込まれ、更に深く穿たれた。


「ひっ…!あぁ――っ」


視界が回る、意識が飛びそうになる。
いっそ、強すぎる快楽の渦に呑まれて、意識を失えられたらいいのに――ぐったりと上半身を沈め、虚ろな瞳を彷徨わせる。


「っ、しろう……」


甘ったるい低音声が耳に吹き込まれ、長い牙が肩を食む。
自分より少し大きな手が己のそれに被さり、指を絡めてきた。


「メ…フィス、ト……」


掠れきった声で自分の悪魔を呼べば、唇を塞がれる。
上からも下からも淫らな音が響き、ともすれば、逃げ出したくなる気持ちに駆られるけれども。
縋るように抱きすくめられ、余裕をなくした表情を向けられたら、堪らない気持ちになる。


「く…ぅ、獅郎……っ」


眉根を寄せ、締め付けられる快楽に堪える表情が、酷く色っぽい。
ああ、俺も随分と、この悪魔に入れ込んでしまっているなぁと、思う。
そうでなければ、生きる時間も何もかもが違うこの悪魔を、いとおしいと思う、なんて。


「メフィスト――」


絡まる指をきゅっと握り返し、間近にあった唇に、自ら擦り寄る。
驚きに見開かれた碧の瞳が、どこまでも綺麗だ――そう思った瞬間、一際強く、貫かれた。


「――っ!お前はっ……、どこまで私を煽れば気がすむんだっ……!」
「うぁっ!?いぁっ、や…あ、やめっ…」


抑きれない嬌声が漏れる、激し過ぎる揺さぶりに、生理的な涙が滲む。
快楽が行き過ぎて、苦しい。
けれども、それでも、構わないと、思う。
これが、彼が宣う愛情と言うのならば、自分は――


「獅郎……っ」
「うっ、ぁ、メフィっ……スト…」


譫言のように何度も名を呼び、何度も口づけ、快楽の奔流に呑まれ落ち合う。
言葉にならない想いを、熱い吐息に、託しながら。
絡め合う指の力を、ぎゅぅっと、強め合った。






できない



(息もつかせぬほどに、刹那の熱に、現を懸ける)




………………




私にエロは早すぎたようです何だこの中途半端さは…エロは読むのに限りますね、もっと精進します。
ちょっとしたおまけあります。



11.08.13




(2/9)
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