私だけを(サボ)




バーで出会った海賊とセックスをした。もう帰るの?という質問を背中で受け、私はホテルを後にした。深夜、誰もいない廊下を歩き自室に向かう。廊下の角を曲がると、私の部屋の前にはサボが腕を組み壁に寄りかかっていた。

「…m、今までどこにいたんだ?」

サボは顔をあげ、私を見て静かにそう言った。私はそれを無視して部屋の扉を開けると当然かのようにサボも部屋に入ってくる。私はそれを拒む事はしなかった。私が今までどこにいて何をしていたかなんて、サボは気付いているだろう。そうでなくても、私はサボが分かるようにわざと情事の痕を残している。

「なあ、これで何度目だ?」

サボの言葉を聞き流し、私は上着を脱ぎ捨てて、かったるそうにソファーに座った。部屋に入ったときから1歩も動いていないサボをちらりと見上げると、別にサボには関係ないじゃん、とため息をついてみせる。サボのことなんて眼中にないんだよ、どうでもいいんだよ。私はサボの目を見てしっかりそう言い放った。サボは私の煽りにも眉一つ動かさず、私をただ見下している。もう一度煽ってやろうかと私が口を開きかけたその瞬間、私はいきなり首を捕まれ、うめき声と共にソファーに倒れた。苦しくて首にある手を退けようとしても、それはびくともしなかった。

「m、俺はお前なんて、殺そうと思えば片手で殺せる」

お前が他の男に抱かれるくらいなら、今ここでお前の事を殺してやろうか。
サボはそう言って手の力を緩めることもなく、私に覆いかぶさり、据わった目で私の苦しむ姿を見つめている。私の目からは生理現象で涙が溢れて、呼吸もろくにできやしない。だが反対に、どんどん苦しくなる中で私は口元をゆるめた。今、サボの目には私しか映っていない。サボは、そうやってずっと、私だけを見ていればいい。私しか視界に入れなくていい。サボに見つめられて、サボの手で殺されるならば、それはむしろ本望だ。今までそこらへんの男に抱かれてきたのなんて全部、私のことで頭をいっぱいにして欲しいから。現に、サボは怒り、この瞬間だけは、私しか見ていない。他のものなんて少しも視界に入ってきてはいない。私はそれが幸せなのだ。1度も口に出したことはないが、この思いはサボに届いているのだろうか。他のどうでもいい男に抱かれるのも、全部あなたを思うが故なんだよ、わかってる?私は浅い呼吸を繰り返しながらも、目の前の愛しい男の頬に手を添える。すると、首を絞めていた手が緩んだ。いきなり肺に酸素が大量に入り込み、私は咳き込んだ。今どうして手を離したの?私の思いがやっと伝わった?肩で息をしながら、私がサボにニコリと微笑むと、サボは眉をひそめ、うつむいた。

「…もう、やめろよ。変な奴らに抱かれるのなんて」

サボはうつむいたまま、ポツリと呟いた。ああ、うつむかないで、どこを見ているの、さっきみたいに私だけを見つめていてよ、そうじゃないと、

「…サボには関係ないって言ってるでしょ」

ああ、ほらまた、私はあなたに見つめてほしくて思ってもないことを口走ってしまうから。その言葉に、サボは私を睨みつける。両手の拳は爪が食い込んでしまいそうなほど握られている。そう、そうやってずっと、私だけを見ていればいいんだよ。私はまたサボに微笑むと、サボはソファーの背もたれを力任せに殴り、部屋を出ていってしまった。
そうやって、私のことを置いてまたどこかに行ってしまうから、きっと私は明日も他の男に抱かれるのだ。私はこんなにサボを思っているのに。私は悪くない。サボが全部、悪いのだ。








2017/8/3
2人で病む

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