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今日も太陽がじりじりとアスファルトを照らす。昔はわざわざ焼いていた肌も、大人になった今はシミだの何だのがこわくて必死に太陽から肌を守る。家を出る前には日焼け止めを塗りたくり、デニムのスキニーを履いて、白のサマーハットを被る。電車を乗って向かった先は地元だった。久しぶりに地元の駅で降り、待ち合わせをしているカフェへ向かう。電車で1時間ほどの距離だが、都会よりかは涼しい気がした。カフェのドアをあけると、幼馴染のナミがすでに席に座っていた。「お待たせ」と声をかけ、椅子に座りアイスカフェラテを注文する。ナミとは久しぶりだったが、「久々だね」なんて言葉も使うことなく、すぐに互いの近況報告で盛り上がった。十代の頃は毎日一緒に過ごしていたので、数年会ってなくとも再会したときからまるで、昨日も一緒に居たかのように馴染めた。連絡は取っていたので近況報告もそこそこに、話題は昔の話になった。歳を取ると、すぐに昔の友人と昔の話がしたくなる。私たちは十代の頃はやんちゃだった。中学生になった頃から夜は遊び、酒を飲み、たばこを吸って、単車で流す。ピアスをあけて、髪を染めた。バサバサのつけまつげをつけて化粧をして、ネイルもした。当時は喧嘩や揉め事、先輩からの呼び出しなどで苦い思いをすることもあった。警察には何度もお世話になったし、親やたくさんの人に迷惑をかけた。私たちはませていて、交流があるのは歳上ばかりだった。そうやって背伸びをしていると、自分はもう大人なのだと勘違いをする。一丁前に恋愛もしてたくさん傷ついたし、傷つけた。先輩との上下関係もあった。子供ながらに、その中でも色々と学ぶものはあった。ナミと昔の話に花を咲かせていると、ある男の話になった。私は中学三年生の夏に、初めて同い年の男と付き合った。




中三の夏、付き合った相手の名はエースと言った。この中学校は常に窓ガラスが無いほど荒れていたが、その中でも私とナミは目立っていた。だが一番有名だったのはこのエースという男だった。学校には登校しない、来たと思えば改造されたエースの愛車の原付、黒のZXでマフラーのけたたましい音を響かせながら登校をしたり、上級生と喧嘩をして暴れたり、教師たちすらも学校に来ないでくれと言ってしまうほどの問題児だった。夜中、先輩に誘われ遊びに行くと大勢の中にエースが居るときもあったし、お互い顔と名前は知っていたが、一言二言しか言葉を交わしたことがなかった。なぜそんな私たちが付き合うことになったのかと言うと、ある夜、私はナミを家に置いて1人でコンビニに来ていた。コンビニから出ると、ちょうど原付に乗ったエースが通りかかった。同じ中学なのできっと家は近いのだろう。「あ」と思いながらも特別仲が良いわけではない私は声をかけることもなく、家に戻ろうと歩きだした。すると遠ざかっていたはずの原付の音が、後ろでまた大きくなってくる。私は後ろを振り向くと、エースが原付の後ろを指差し、「お前ケツ乗れ!!」と叫んでいる。意味がわからなく、は?と眉をひそめる。そのあいだにも、テメェ早くしろよバカ!!などと叫んでいるので、私も腹が立ってきて「お前誰だよ」と挑発した。知ってるけど。んだとテメェコラあんなに会ってて知らねえはずねェだろ!!とエースは叫んだ。なんか会話にならないし付き合うのも馬鹿馬鹿しくなった私はエースを無視して家に戻ろうと歩きだした。するとまたエースは追いかけてきて、慌てながらもやっと説明を初めた。エースは先輩たちに電話で食事に誘われたが面倒だったので、今女といるんでと嘘をついた。そしたら先輩は女と顔出しに来いと言われたが、女といるのなんて嘘だし、そもそも女友達すらいないし、仕方なく先輩たちにぶっ飛ばされにいこう、と向かっていた途中で同じクラスの私を見つけた。この狭い田舎の上下関係は絶対なので、エースは先輩に従うしかなかった。
「私に彼女のフリしろってこと?」
「おう!!」
エースは歯をニカッと見せて笑うと、乗れよと言ってまた原付の後ろをばんばん叩く。私は若干引きながらも、この男はなんでこんなマイペースなのだろうと思った記憶がある。結局私はエースのペースに乗せられ、私はエースの彼女ということで2人で先輩たちの元へ向かった。私の顔見知りの先輩たちもいる中、私を見るや否や、エースの彼女ってmかよ!などと言って先輩たちは笑った。私はエースをチラと盗み見ると、わざとらしく口笛を吹いていた。エースはこんなにも嘘を付くのが下手なのに、先輩たちは信じきっている。私たちは先輩に連れられてご飯を食べに行った。私も嘘が得意な方ではなかったので、ボロがでないように質問されたことにしか返さなかった。帰り際、エースをよろしくな!と先輩に背中を叩かれる。はぁ、と生返事をしながらも私たちと先輩は別れた。
そのあと家まで私を送ってくれたエースは、ありがとな!とお礼を言うと、私の返事も待たずにうるさいマフラー音と共に去っていった。本当にマイペースな男だ。
私は家に入ると、ナミがおっそい!と痺れを切らしていた。私は一言謝り、事の経緯を話した。ナミは「エース!?」と驚いていたが、私の話を聞き終わったあと首を傾げた。
「アンタそれ、そのまましばらく突き通さないと嘘ってことが先輩にバレるんじゃない?」
ナミの言葉に私はハッとする。確かにそうだ。あの場に何人か先輩もいたし、もし付き合っていたのが嘘などとバレては面倒な事になるに決まってる。私とエースはそんなことにすら気づかなかった。どうやら私もエースと同じくらい馬鹿だったらしい。エースに連絡しようとするも、連絡先すら知らないことに気づき私は頭を抱えた。ナミはひたすら横で笑うばかりだった。どうすればいいかナミに訴えるも、ナミもエースの連絡先を知らない。ほかの人にエースの連絡先を聞いたとして、そのことがどこからどう先輩たちの耳に入るか分からない。「あんたたちってほんと馬鹿」とナミは笑っている。エースが来るかはわからないが、明日は学校へ行くことにした。
次の日私は学校へ向かっていた。真夏なので家から出てすぐに汗が垂れる。セミもうるさいし、おでこや首に張りつく髪も鬱陶しい。手でパタパタと扇いでいると、原付に乗ったエースがこちらに向かってきた。エースも昨日の失態に気づき、私の家に向かっていたらしい。どうするかと話していたが、馬鹿な私たちだけじゃ解決法も見つかるはずがなく、とりあえず外暑いし学校いく?という結論になった。私はエースの後ろに乗り、2ケツをして学校へ行った。エースと2人で教室に入ると、みんながわっと寄ってきて、お前らやっぱ付き合ってたんだな!などと騒いでいる。どうやら昨日私たちが会った先輩から噂が広まっていたらしい。さらに、先ほど2ケツで登校してきたのを教室から見てたらしく確信に変わった。ということだった。私たちは、それは先輩を騙すための嘘だったんだよと言えるはずもなく、ぎこちなく話を合わせる。エースは男子に囲まれ、私は女子に囲まれて質問攻めを受けていた。いつから付き合ってたの?やら、エース狙ってたのに!などと喚いている女子もいる。私は苦笑いをしながら言葉を濁していると、ふいに腕を掴まれる。私の腕を掴んでいる手を辿っていくと、エースと目が合った。その瞬間、逃げるぞ!と言ってエースが私の腕を引き教室の外へ出て廊下を走る。遠ざかる教室からは女子の悲鳴が聞こえた。私は知らなかったが、エースはモテるらしかった。廊下を走り、階段を駆け下りて昇降口へたどり着く。足の速いエースに合わせて引っ張られていた私は乱れた息を整えていた。エースは、まずいことになったなと困った顔をしている。どうすんのよ、と言おうとした矢先、外から「おーい」と私たちを呼ぶ声が聞こえた。すると先ほど教室にいなかった友達カップルが登校してきたみたいだった。
「先輩から聞いたぞー!お前ら付き合ってたんだな!」
「あ?…ま、まァな」
「今度4人で海いくか!夏だしな!」
「はっ?行かねェよ」
エースが断るとその友達は一瞬キョトンとする。だがすぐに笑顔が戻り、照れてんじゃねェよ行くぞ!とエースの肩を叩いた。別に照れてねェよ!などとエースもムキになり言い出すので、じゃあ決定な!と言ってその友達カップルは廊下へと消えていった。
「ちょっと。断るの下手かよ」
「うるせェな。こうなったらもうさっさと海でもなんでも行って別れたってことにしよーぜ」
もうこうなってしまっては仕方ないかと思い、私も頷く。もう疲れたから帰ろうぜとエースは昇降口を出て原付のエンジンをかけた。それを私はただ見ていると、「お前も帰んねーの?早く後ろ乗れよ!」とエースはニカッと笑った。私はこの笑顔に弱いらしく、呆れた様にため息をつき、エースの後ろにまたがった。家に着き、エースと連絡先を交換して別れた。まだ昼前だ。私はナミに連絡して昼ご飯を食べいくことにした。家の近くのファミレスにナミと待ち合わせる。ファミレスに入るとすでにナミは座っていた。
「今日学校いったんでしょ?エースとは会えた?」
私は、うん、と頷き、ドリンクバーを注文して2人分の飲み物を持ってくる。飲み物を飲みながら、今日あったことをナミに説明した。付き合ってることになったこと、今度ダブルデートで海へ行くこと。私はげんなりしながら話していると、ナミは笑い始めた。
「あんたたち、どんどん面白い方向に行っちゃってるわね」
笑い事じゃないよと言って私は手で顔を覆う。
「いいじゃん、本当に付き合っちゃえば?エース、強いしかっこいいじゃん」
私はナミの言葉に驚き、えっ?と声を漏らしてしまう。その考えは思いつかなかった。うーん、確かに悪くはないのかな、うーんと私は頭の中で考えていると、ニヤニヤしてこっちを見つめてるナミが目に入る。私は正気に戻った。
「いや…いやいや、ないない。タメとか無理だし。」
「そーお?私はmとエース、お似合いだと思うけどな〜」
ナミはニヤニヤしながら私を見てそう言った。私は、ないないと言ってテーブルのベルを鳴らす。すぐに店員がきて、注文をとる。
「ていうか、海いったらすぐ別れたってことにしようって話してたんだよね」
「あら、もったいない。様子見てみたら?意外と良いかもよ」
「まずあっちにそんな気ないだろうし…」
私はストローでズズ、と飲み物を飲み干す。ナミは、そーお?と言いながらまたニヤニヤしている。力も権力も強い男が好きだった当時の私は、歳上とばかり付き合っていた。でも確かにエースも、最高学年になった今は1番喧嘩が強いし目立っている。いやもしかしたら上級生がいたとしても喧嘩はエースのほうが強いかもしれない。いやいやでもこうなったのは事故だし。エースも私のことをそういう対象で見ていないだろうし、私もこんなこと考えるのやめよう。そう思っていたら料理が運ばれてきた。ご飯を食べたあと、私とナミは私の家に帰った。夏は暑いので、遊びにでるのは20時を過ぎてからだ。それまで私たちはいつもの他愛もない会話をしていた。夜になり、そろそろ出ようと支度をして2人は家をあとにした。いつもの場所に行くと、もう何人かはそこにいた。中学生なんて金もなければ足もないので、いつもたむろしているか先輩と遊ぶかだった。当時はそれだけなのに何時間もいれるほど楽しかった。夜も遅くなり、先輩たちもどんどんこの溜まり場に集まってきた。族の先輩たちも集まってくる。するとその先輩たちと一緒にエースもいた。今までだと目が合えば軽く手をあげ挨拶をする程度のエースだったが、私を見つけるとこっちへ駆け寄ってきた。
「やっぱお前らも来てたか!今から先輩の後ろ乗って流しにいくんだけどお前らも来る?」
流しにいくとは暴走行為をするということだ。この先輩たちは暴走族だった。エースは中学生だが先輩たちからは可愛がられていた。エースはやんちゃだが、仲間内には優しい。その人懐こい性格で、先輩からも好かれているのだろう。バイクに乗ることが大好きな私とナミは、エースの誘いに頷き流しにいくことにした。私は先輩の単車の後ろに乗り、道を走っていた。夏の火照った体に風が吹き付けて気持ち良かった。改造車ばかりが十数台も走っているのでけたたましいマフラー音がする。だが私はその音が大好きだった。私は今15歳だから免許はまだ取れないが、こうして走ることが大好きだったので16歳になったら絶対に免許を取ろうと決めていた。エースも今は無免で原付には乗っているけれど、16歳になったら免許を取ってこの連合に入るのだろう。この連合に入れるのは16歳からだった。ナミが乗る単車は前のほうを走っていた。私は後ろのほう。エースはケツ持ちの単車に乗っていたので1番最後を走っていた。コールを聞いたり、みんなと会話をしながら楽しく走っていると遠くからパトカーのサイレンが聞こえる。先輩たちのテンションは最高潮になった。「おまわり来たぞー」「エースよろしくなー!」などと、エースが乗っている先輩に向かって皆が楽しそうに叫んでいる。どうやらイタチごっこを始めるみたいだった。すると先輩とエースはマスクをして、エースは後ろに手を伸ばしナンバープレートを見えないようにあげた。パトカーのサイレンはあっという間に近くなり、すぐに私たちの集団の後ろまで来た。集団のスピードは少し上がり、エースが乗った単車はノロノロと遅くなり、集団にパトカーを近づけさせないようにする。パトカーからは、どけコラァ!と叫び声が聞こえてくる。これがケツ持ちの役割だった。少し遊んでいると、段々とパトカーの数が増えてくる。イタチごっこもほどほどに、私たちはそれぞれに散らばった。人気の無い住宅街を走り、私の家の近くでバイクは止まった。マフラー音ですぐバレちゃうから、悪いけどmちゃんはここまでね、と言われ、お礼を言って私は単車を降りる。
「楽しかったね!mちゃん、また一緒に走ろうね」と言い先輩は去っていった。今頃降ろされたであろうナミと連絡を取り、もう陽も昇ってきたので今日は自宅に帰ろうと言うことで私たちは解散した。
次の日、私は昼前くらいに目を覚まし、ナミの家に行った。私たちはいつも先に起きたほうがお互いの家へ行き合流していた。ナミの家のチャイムをならしてナミを起こすと部屋へ案内される。ナミが支度をしているあいだ、私は部屋でテレビを眺めていた。
「今日エース学校くるかな?」
「さあ?気になるの?」
ナミは支度している手をとめ私のことをニヤニヤしながら見てくる。その視線を無視して私はまたテレビに目を戻した。昨夜、私たちは途中で降ろされたが、エースはケツ持ちだったため最後まで警察の相手をしていただろう。私とナミよりも帰る時間が遅かったはずだ。ナミの支度も終わり、私たちは昼頃に学校へ行った。やはりエースは来ていなかった。ナミと私は屋上へ行きぐだぐだしていた。私はエースにメールをしてみたが、結局学校が終わっても返事がくることはなかった。きっとまだ寝ているのだろう。学校の帰り、私とナミはいったん自宅に帰り、夜にまた会う約束をした。今日も暑かったため、家に帰るとすぐにシャワーを浴びる。冷房をつけてテレビを見ていると、私はうとうとしてしまってそのままソファーで寝ていた。
ふと目が覚める。少しのあいだ寝てしまっていたようだ。まだ眠い目を擦りながらも携帯を見ると、エースからの着信が入っていた。ソファーに横になりながら、エースに電話をかけた。
「もしもし」
『おう!わりィな、ずっと寝てた』
「いいよ、別に」
『m、オマエ今日ひま?遊ぼうぜ!』
「今日はナミと遊ぶ」
『あーそうなのか!わかった!じゃあまた後でな!』
ブチ、と電話が切れる。太陽も真上から少し西に傾いている。少し早いが、暇なので遊びにいく支度を始める。顔を洗い、化粧をする。髪をコテで巻いていると、外からうるさいマフラー音が聞こえた。髪を巻くことも途中のまま窓を開けて外を見ると、エースがいた。こちらに気づいたエースは笑顔でぶんぶん手を降っている。ちょっと待ってて!と私は叫ぶとエースは原付のエンジンを切る。それを確認したあと急いで髪を巻き終えて、外へでた。
「やっぱ遊び行こうぜ!」
開口一番、エースはそう言った。
「だからナミと遊ぶから…」
「いいだろ、ナミとはいつも一緒にいんじゃねェか。ちょっとナミに電話かけろ!」
私は言われるままに携帯を取り出し、ナミに電話をかける。着信音が流れてしばらくしてナミがでると、エースは私の手から携帯を奪った。
「ナミ!俺だけど、今日はm借りていいよな?」
『…あー、エース?mと一緒なの?まぁ別にいいけど。』
適当に遊ぶし。とナミはあっさりと快諾する。わりーな!とエースは通話を終わらせると私に携帯を返す。
「ほら、いくぞ!乗れ」
エースは原付のエンジンをつけ、自分のヘルメットを私に渡す。
「どこか行くの?」
「いーからメットつけろよ」
「…それじゃエースがのっぺじゃん」
「元から2ケツだっつーの!」
エースにヘルメットを被らないことを指摘すると、元々2ケツだから追われるときは追われるぜと笑いながら言われる。私も、確かに、と笑いヘルメットを被り原付の後ろにまたがった。
「あ、プレートあげといて」
警察に追われたときのために、ナンバープレートは隠す必要がある。私は後ろに手をのばしナンバープレートをあげた。
「うし、行くぞー!振り落とされんなよ、m!」
馬鹿じゃん、と私が笑うと、黒のZXはでかいエンジン音と共に走り出した。家を出るとすぐに汗がふきでるほどの日差しも、風に吹かれている今は気持ちがいい。巻いたばかりの髪の毛が風に吹かれてボサボサになったが、今は何も気にならなかった。









2017/7/19
書いてみたかったヤンキーパロ。
どうせならヤンキー感ごりごりに出していきたいので、あえて用語なども含めてリアルに書いていきたいと思います。ので、ちょっと厨二感ありますが、それも青くさい春!ということで!
当たり前に全部フィクションです。絶対に真似しないでください。犯罪です。続きます。

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