きっと夏のせい(エース)


(※現パロ)



もう夜の20時だと言うのに、外は蒸し暑く、風はぬるい。人は多いし、蝉はうるさい。夏祭りだからと言って、ただの焼きそばを500円で売る人たちや、この暑いのにも関わらずはしゃいでいる子供たちや恋人たち。夏のイベントの一つである夏祭りは、人混みで溢れかえるほど賑わっていた。

私はその喧騒より少し外れた場所にしゃがみ込んでいた。少し離れた場所で行き交う人々を眺めながら、タバコに火をつける。目の前には、つい先程まで神輿を担いでいた男が、私に向かい合ってしゃがみ込んでいる。

「エース、お神輿抜け出していいの?」

「いいのいいの。ちょっと休憩」

「会いたかった」

「エロ」

表情も変えずにそう言うエースに、私は祭りの様子を見つめながら鼻で笑う。そんなことなど気にもしないエースは、鬱陶しそうに汗で濡れた前髪をかきあげた。いつもとは違う、ダボに半纏を羽織り、胸元や首には何筋もの汗が流れているその色気ある姿に、少し心臓が高鳴る。祭りのメインの道から少し外れれば人はいなく、祭りの喧騒は遠くに聞こえる。こんなに人がいるのに、みんな私たちには気付きもしない。ここはまるで2人きりの世界のようだった。

「やばい、好きになりそう。夏だからかな」

ああ、私、一体何を言ってるんだろう。この暑さのせいなのか、それとも目の前にいるこの男のせいなのか。祭りで浮かれきっているのは私のほうじゃないか。エースはニコッと笑い、私の口元からタバコを奪う。それを地面に擦りつけ、私に触れるだけのキスをした。唇を離すと、目が合った。するとエースは、よっこらせ、と言い立ち上がる。私はしゃがみ込んだまま、エースを見上げた。

「m、そろそろ戻るわ。お前、神輿が終わるまでここにいろよ」

神輿が終わる時間まではあと30分ほどだ。私が頷くと、エースは私の頭の上に手をポンと置き、背中を向けた。気だるそうに頭をかきながら歩いていく背中を見つめ、私はこの祭りの雰囲気に飲まれたまま、身をゆだねてしまうのも悪くないと思った。きっと、次にエースと会う頃には、この心臓を締めつけるような気持ちが何なのかも分かることだろう。私はまたタバコに火をつけ、近いようで遠い祭りを、ぼうっと眺めていた。








2017/7/17



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