たまには悪くない(麦わらの一味)




久しぶりに高熱をだした。思い返せば海にでてから寝込むのは初めてのことではないか。チョッパーが言うにはただの夏風邪で、安静にしていればすぐに熱は下がるということだ。心配性なチョッパーは私にずっと付きっきりだった。「ただの風邪なんでしょ?大丈夫だからみんなのところに行っておいで」と、お礼も言いつつ、心配するチョッパーを半ば無理やり部屋から追い出す。ルフィは先ほどからちょろちょろ部屋に入ってきては、「肉食うか?」と声をかけてくる。熱をだしている病人に肉を食わせようなんてあんまりだが、これはきっとルフィなりに心配してくれているのだろう。あとでいっぱい食べるね、と返事をすると、そうか、と言ってルフィはまた部屋を出ていった。ルフィが部屋に訪ねて来てから5回目ほどに、ついにルフィは私の様子を見に来たナミに叱られた。ナミは、あとで着替え持ってくるわね!と言ってルフィを引きずり部屋を出ていった。ルフィの怒涛の訪問も終わり、ぼーっと天井を眺めていると、次はゾロが入ってきた。相変わらずのしかめっ面で、ベッドの横に来たと思ったら腕を組んだまま私をじっと見つめている。何よ、と私が口を開こうとするよりも先に、「大丈夫かよ」と問われる。まさかゾロの口から労りの言葉が出てくると思っていなかった私は思わず笑ってしまう。何だよ、と眉間に皺を寄せるゾロに、なんでもないよ、と笑ってみせると、ゾロはフンと鼻を鳴らし部屋を出ていってしまった。ゾロが私の心配をしてくれるなんて珍しいこともあるもんだ。私は笑みをこぼしながらそんなことを考えていると、ドタバタと廊下で騒ぐ音が聞こえた。勢いよく扉が開いたと思ったら、フランキーとウソップが入ってきた。おいおい大丈夫かー?と2人は口々に言い、フランキーは、退屈だろうからよ!とおもちゃやぬいぐるみを並べはじめる。ウソップは花壇で育てたという花を活けてくれている。ベッドから手を伸ばし、こんなのどうやって使うのよ、とおもちゃを手に取り呆れるが、やはり心配してくれていることが嬉しかった。ウソップはベッドの横の椅子に腰掛け聞き語りを始め、フランキーはおもちゃの使い方の説明を始めた。するとサンジくんがすっ飛んできて、「おめェらがいると治るもんも治らねェんだよ!」と言って2人を部屋から追い出してしまった。サンジくんはこちらを振り返り、「mちゃん、薬もってきたよ」とサンジくんがトレーを持っていることに気づく。「おかゆ作ったけど食べれるか?」サンジくんはトレーをベッドの横の台に置き、椅子に座った。辛いのか?あーんする?とサンジくんは心配そうに聞いてくる。自分で食べれると言いたいところだが、体がだるくて皿を持つのも億劫だった。今日くらいはお言葉に甘えようと、私は頷き上半身だけを起こす。食べたくないだろうけど、少しでも腹に入れような、とサンジくんはおかゆをフーフーと冷まし始めた。私は思わず、サンジくんお母さんみたいと呟くと、サンジくんは「なんだそりゃ」と困った顔をして笑った。やはりおかゆは少ししか食べれなかったが、薬は飲めた。何かあったらすぐ呼んでくれよと言い残して、サンジくんはトレーを持って部屋をでていった。薬も飲んでウトウトしていた頃に、またコンコンとノックする音が聞こえる。静かに扉が開くとブルックが入ってきた。「子守唄でもどうですか?」と言うなりブルックはバイオリンを弾き始めた。もう子供じゃないんだから、と私は苦笑いをしたが、内心嬉しかった。海賊になってから、まさかバイオリンの音色を聴きながら眠りにつけるなんて思ってもみなかった。ふと、ベッドの横で腕と花びらが舞った。そこには替えのパジャマと共に、「お大事に」と綺麗な字で書かれたメッセージカードが置かれていた。きっとナミに頼まれたロビンが運んでくれたのだろう。心の中でお礼を言い、ブルックの心地よい子守唄も手伝って私はすぐに眠りについた。


「あ、起きたか?m!」
目を覚ますとすぐにチョッパーが視界に入る。部屋の近くで遊んでいたのだろうルフィたちが、チョッパーの声を聞いてわらわらと部屋へ入ってきた。熱は下がり、体も軽い。チョッパーはmの体に聴診器をあて、ひとまず大丈夫そうだな!と笑った。「良かったなァ、m!じゃあ遊ぼうぜ!」そう言ってシシシとルフィが笑う。「mはまだ病み上がりなんだからだめでしょ!」と、ルフィはまたナミに叱られた。それを見て私が笑うと皆もつられて笑顔になった。
この船の上でなら、たまには熱をだすのも悪くないかもしれない。








2017/7/11

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